「ラストフラワーズ」

あの大人計画と新感線ががっつりタッグを組む、しかも単に共演するとかいうレベルではなく松尾さんが脚本を書いていのうえさんが演出、さらに音楽はスカパラというなにこの全部盛り感。そりゃ上半期の話題も独占しますよっていう。以下あんまりネタバレでもないですけど一応未見の方はご注意を。

B級スパイアクションもの、と聞くと新感線ファンは「すわ、おポンチか」と思ってしまうところがありますが、まさに「新感線の劇団公演なら絶対こういう展開ではない」という脚本だったなー。

観終わっていちばん強く印象に残ったのは、松尾スズキさんの作家性の独特さ、強烈さだったかなと思います。私はどちらの劇団の公演もこの10年はほぼ欠かさず拝見していますし、どちらの劇団もそれぞれに好きな所や思い入れがあります。いのうえさんの演出というのは、たとえば全然関係無いプロデュース公演なんかを観た時に「ああ!これを!いのうえさんに演出してもらいたい!」と思ったりすることも少なくない、確立されたスタイルとカラーを持っている演出家のおひとりだと思うんですよね。実際、今回の舞台でも、「松尾さんならこういう風にはやらないだろう」というような演出は多々ありました。

しかしその強烈ないのうえ色をもってしてもなお、作品のあちこちにサインされた「松尾スズキ」というカラーがやっぱり強烈なんですよ。私はそう感じました。松尾さんとしても、自分が演出するわけではない、という縛りのなさからよりカラーの強いものができあがってきたというところもあるのかな。一幕は実際にそのカラーの強さにいのうえさんが手をこまねいているという印象もありました。二幕になって物語が収束していくにつれ、いのうえさんお得意のケレン、場の見せ方のうまさなんかが発揮されてきたように感じましたし、実際二幕のほうが観ていて楽しかったです。

あと、音楽がスカパラで、非常にカッコイイうえにおしゃれだし、劇中歌はめちゃくちゃいい曲に仕上がっていてさすがの一語なんですけど、いのうえさんのカラーを出し切れてない理由は音楽のおしゃれさにもあるのかもね…とか思ったり。パンフで松尾さんに「新感線の舞台を観ているとパチンコ屋の店内にいるみたい」と評されてましたが、音楽でつくる演出のケレン、というものも少なからずあるよなあ、と。しかし、音楽はスカパラで、というのは企画当初からの松尾さんの条件だったようなので、いのうえさんとしてはそこに挑戦!みたいな気持ちもあったのかなー。

初日に拝見したので、セットの出ハケでゴツゴツドカドカいろんなところに当たってセット裏からでかい音が聞こえてくるとかはまあ、新感線(いのうえ演出)の、初日だしね!と想定内というところではありました。いろんなところが(小ネタもふくめ)これからブラッシュアップされるんだろうなーという感じ。

キャストは松尾さんがほぼあて書きしたとパンフで仰っていたんですけど、松尾さんがサンボちゃんを若手だと思い込んでいて、アクション満載の役を振ったという話に笑いました。サンボちゃんかっこよかったよ!宮藤さん、ラジオでご自分の役を「出番少ない、ラク」とか仰ってたんですけど、確かに出番多いわけじゃないけど、でもちょおおおイイ役じゃないですか!愛されてる、宮藤さん愛されてるよ!

星野源さんのファンが少なからず、相当な熱量でいらしているのではないか…という雰囲気だったんですが(あの出てきた瞬間にふぁっ!と劇場の期待感が音もなくあがる感じね、あれが感じられたんで)、二幕の展開に「やっぱり『観たいものは観せて帰す』劇団だもんなーふたつとも」って思いましたね。そしてラストの平岩紙ちゃんにはMVPを差し上げたい。あのタンバリンはよかった。あれを観られただけでもこの芝居を観てよかったと思わせる。

しかし、阿部サダヲ古田新太という二人はやっぱりちょっと格が違うところがありますね。役者の好みなんてそれぞれ十人十色で当たり前ですが、説得力というのかねじ伏せ力というのか、場面を成立させる力という点で抜きんでてる気がする。

カーテンコールでは大人計画の役者と新感線の役者が1人ずつ、2人並んで出てきていて、その光景はなんとも言えずよかったし、ああ贅沢なものを観たなあと実感させてもらった気がします。