「俺節」

原作未読。関ジャニ安田章大くんが主演ということで、まーこれはチケット取れない案件ですよねーと流していたんですが、東京公演の幕が開いたら相次ぐ絶賛評に、そ、そんなに〜!?と気になってしまうシアターゴアーの習性…。いやでもどうせチケット手に入らないしな〜と思いながらおけぴを眺めていると、大阪公演はキャパの大きさにも助けられて3階席だとわりと譲渡が出ている!マジか!ぽちっとな。←私の人生こればっか

ということで3階席の後ろの方から見てきました。いやーよかったです。物語は青森から歌を志して上京してきた若者の、地べたを這いずるような日々を描いているわけですが、原作よりも構成をすっきりとさせているみたいですね。中心になるのは主役のコージ、その相方のオキナワ、そしてテレサ

音楽を扱う漫画には数々の傑作・名作があると思いますが、それを実写化する、もしくは今回のように舞台化するとなったとき、結局のところ一番のハードルはその「音楽」というものになってしまうと私は思っていて、なぜなら漫画を読んでいるときはその音楽は脳内で鳴っている。「天上の音楽」「天使のような歌声」「自然と踊りだすリズム」…それらは脳内ではいくらでも再生可能だ。だけど、実際に聴かせるとなったなら、それだけの説得力を物理的に備えたものでなくてはならない。

もし、単に歌の上手い、下手でいえば、安田くんよりもうまい人はおそらく沢山いるだろうと思う。しかし私がすごいと思ったのは、安田くんの芝居にはなによりもその「物理的な説得力」があったことでした。「歌でお前らを倒す」と言われて、実際にその「歌」に説得力がなかったら、今回の舞台そのものが成立しない。でも、あるんですよ。歌しかない、歌に賭けている、その歌の中に自分がいると思わせる説得力が。

しかも、劇中ではその「魂の叫びのような歌」ではない「普通にうまい歌」を歌う場面もあり、かつ「ああ今のは普通にうまいだけだよなあ」と観客に思わせるとかどんな手練れだよと思いました。耳がいいんだろうとおもうけれど、終始訛りのある台詞回しもまったく問題なく、芝居が多彩。安田くんはこれから舞台でバンバン声がかかりそう。とはいえ関ジャニのお仕事も忙しいだろうからそうそう機会もないかもしれませんが。

相方のオキナワをやった福士くんがこれまた達者としか言いようのない芝居!西岡徳馬さん演じる演歌の大御所とのやりとりよかったなあ。ケレンというものをわかりきっている徳馬さんがすばらしいのは勿論だが、福士くんもよくそれについていっており、なんというか一瞬つか芝居の手触りを感じるような滾る瞬間があった。あそこで拍手きちゃうの、わかるわかる。ふたりがそういう芝居に持っていっているものね。徳馬さんが歌について語る台詞の説得力ったら!

六角さんがなにをやらせても唸るほどうまいのはもう折り込み済みだし、中村まことさんに高田聖子さん、小劇場界の猛者たちも自分の仕事をきっちり果たしていてさすが。シャーロットさん演じるテレサの役、原作ではフィリピン国籍だそうだけど、ウクライナに変えていて、そのあたりあの搾取される女性たちのディティールがすごくよく取材されてるんだなーと思いました。もちろんファンタジーもあるんだけど、その配分が絶妙。

奥行きのある舞台でしたが小さいセットをうまく展開させていて、福原さんの演出は安心して見られるなーと思いました。そして本水大好きだよね…福原さんね…(笑)

幕切れも絵に描いたようなハッピーエンドというわけではなく、でもすっきりとさわやかで、あのすぱっとした終わり方は非常に好みでした。3時間半の長丁場、二幕に至っては110分の長さですが、それを感じさせない舞台でした。見られてよかったです!