「なんぼのもんじゃい」

人からのお薦めメールをもらったのでふらっと当日券で見てきました。平日の昼間ってこともあってか、座席はガラガラ・・・
もったいない。もったいなさすぎ。

「現代版・雨月物語」と言われてもその雨月物語自体をあまり知らないのでなんなのですが、観て、帰ってから「雨月物語」を調べたらな、なるほど〜〜!でした。なるほどね。まさに言い得て妙。今この時代に起こっている「むかしむかし」なお話というか、亜空間というか異空間というか。「異」って言葉がぴったりかな。そんなディープ大阪、西成という空間に棲みついてしまった男と女のお話。

西成という土地に足を踏み入れたことがあるか、っていうのは結構この芝居の印象を左右するんじゃないだろうか。あの独特の空気感。西成のあの空気感無しでこの芝居は成立しないような。ケラさんがよくこういう「真綿で首を絞めるような監禁」のシュチュエーションを描くけど、それのナニワ版って感じかな。逃げだしたいのか逃げ出したくないのか、そんな次元すら超えてしまった、ぐずぐずの男と女の延々と繰り返されるだろう日常の会話がなんともリアルで重い。男はどうしようもないろくでなしだし、女は男の言うがまま。本当ならものすごくストレスのたまる関係なのに、不思議な居心地の良さも感じられるのがすごい。

女は蛇にとりつかれたのか、それとも蛇になったのか。目ん玉握りつぶして「地獄も極楽も見せてたまるか」と叫ぶ男に、どうしようもない愛情と嫉妬を感じて思わず鳥肌。情ってやつは、地獄までもついてきそうに深いよな。

九十九一さんとみやなおこさんの二人芝居でしたが、この二人の演技が半端じゃなく凄かった。九十九さんは殆どキャラ変えてないようなのに何役もの微妙な演じ分けが見事だし、冒頭の立て板に水な実演販売の口上の淀みなさ、そしてラストで繰り返される狂気じみた口上の壮絶さに舌を巻きました。そんでもってみやなおこさんの素晴らしいこと!最近よく初舞台の人とかいわゆる芸能人な人たちの舞台観て「よく頑張ってる〜、うまいよ〜」とか書いてきたけど、こういう芝居を観ると「うまいよ」なんて言葉はみやさんみたいな人にしか使っちゃいかん、いやむしろ上手い、なんて失礼にしかならないんだってことに改めて気がつく感じだ。あの、まさに「豹変」ぶりのすごさたるや。顔が変わる、声が変わるだけじゃない、仕草、目線、語尾にまとわりつく妖艶さ、あ〜〜〜もうほんと凄かった。

しかもなんと、1時間10分程度の上演時間ってところが素晴らしいよ。こってり濃密な1時間、堪能しました。惜しむらくはもっともっと宣伝してほしかったなーって事ぐらいか。なんかあまりに知られなさ過ぎてる気がしましたが・・・もっとたくさんの人に観て欲しかったな。