「LYNX」

なにしろ一番に驚いたのが、90年に初演されほとんど書き換えのないまま2004年に上演されたこの脚本が古びてしまっていないこと。古びていないというのは正確ではないかな。98年に再演された「LYNX」を見たときは、「ちょっとズレてしまっているかな」と正直思う部分もあったから。それでもLYNX好きの私としては十分満足していたんだけど、なんだか時代がもういっぺん回ってきたというか・・。ドラッグやサイバースペースという言葉の裏に潜んでいる孤独の顔が、今回の上演でははっきりと浮かび上がってくるように感じました。逆に今の方が、そういったものに取り囲まれた孤独感にはみんな敏感なのかもしれないですね。

構成も選曲も、ほとんどと言っていいほど変えていない。そのこだわりっぷりには頭が下がります。でも、演出面では多少噛み砕いてるような感じもしたかな。もともとスズカツさんの演出はわかりやすくてなおかつスタイリッシュなところが大好きなんだけど、エンドウとオガワの関係を描くシーンではかなり細かく修正を入れてるなと。エンドウが鏡に戻る切り替えをちょっと丁寧すぎるぐらい丁寧に見せてましたね。あと、ウサミとイタバシも、オガワの脳内の二人と現実の二人をぱっきり分けて演出していたような。鎖を使ったのは今回の一番の大きな変更点でしたが、オガワが心の中に作ってしまった檻をこれまたわかりやすく見せていて効果大。エンドウを撃った瞬間から、ひとつひとつ鎖が解かれていくのが、なんとも切ないです。

ラストのエンドウとオガワのやりとり、オガワは線が切れたように無表情で、淡々としています。勝村さんが演じたオガワはラストで、死への恐怖と思われるような動揺を見せて演じていましたが、アツヒロくんのオガワはそれすらない。ただ孤独がいやで、一人がいやで、だからこそこんなに孤立してしまって、でもほかにどうしようもできない諦感のような想いが滲み出ていました。何かを諦めてしまったような表情でエンドウに銃口を向けながら、それでも涙を流す彼を見て、私はこの芝居を見て初めて泣いてしまいました。

核となる台詞のやり取り以外は二人の雰囲気におまかせ、という感じなのか、フリーで遊ぶシーンはそのまま役者同士の関係が現れているようで面白かった。初演の勝村・松重組は「同志」といった空気だったけど、アッくん・さとしさん組は物分りのいい弟と、やんちゃな兄といったところ。二人で遊ぶシーンが楽しすぎるのか、私が見た回で何度かシリアスシーンとの切り替えに失敗したところがあって、そこはダメだししておきたいところですな(笑)

しかしそれにしてもアツヒロくんのオガワはよかったなあ。こんなにいいとは、って感じですよ。思うに彼は一度徹底的に「孤独」ってやつと向かい合ったことがあって、その点で自分の中の「オガワ」をしっかり捕まえているという感じでした。さとしさんのエンドウは、私の求める「異形感」を存分に出してくれてて大満足。ってか期待以上の格好良さにもう目がハート。どこか非日常な空気が漂うところがすごくいいよな、と。何しろオープニングの立ち姿だけで観客をさらう存在感があるもんなあ。誓さんもさすがのうまさ。鈴木浩介さんは初見でしたが、これまた微妙に鼻につく感じをうまく出していてよかった。ヨタロウさんの味は言わずもがなです。

オープニングの照明、鏡のシーンからぬっとこちらの世界に飛び出してくるエンドウ、ホワイトノイズ、ポリスの「見つめていたい」、オオヤマネコ、床に倒れたオガワの財布を抜き取るアマリ、そして葬送の白い錠剤。「この部屋って人が死ぬのにちょうどいい」「あんたが今まで経験したことに、本当のことがいくつある?」「善行を施すってのはそんなに気持ちのいいものなのか」「同じじゃねえだろ。鏡の右手は左手じゃねえか」「とにかく憎め。憎めば到達できる」「だれを愛している・・・?」 大好きで、何度も何度も聞いたセリフ。それをもう一度舞台で見ることができたのもものすごい喜びでしたが、今回何よりも嬉しかったのはまた新たにこの物語を発見し直す事ができたこと。ああ〜、やっぱり大好きだ、LYNX!!