「五月大歌舞伎 夜の部」

義経千本桜 川連館」
通称「四の切」というのだそうですがどうしてそう言うのかは知らず。*1有名な猿之助さんの狐忠信も、勘三郎さんが平成中村座でやった狐忠信も見ておらず、演目自体初見でした。
なるほど、これが名作義経千本桜か・・・とふむふむと眺めおり。いろいろケレン味溢れる演出も多くておお!と素人な私はいちいち新鮮でした。話の内容は個人的にはあまりピンとこなかったんですけどね。しんみり泣かせるお話という感じはあまりしなかったですね。菊五郎さん、本物の忠信の時の重厚感と狐の時の軽みがいい対比で落差があって面白かったです。

「鷺娘」
時間にして約30分の舞踊なのに、その間にぎっしり詰まった趣向、空気、芸の力に圧倒され。玉三郎さんの美しさに身も心も奪われました。吹雪の中力尽きて倒れる姿に思わず知らず涙が。「研辰」を見に来たお客さんに鷺娘を見せたい、という勘三郎さんの気持ちがわかった気がします。

「野田版・研辰の討たれ」
初演時の興奮もそのままに、遊び心てんこ盛りでなにより「やってる役者さん達が一番楽しそう」な舞台にこちらもにこにこ。勘三郎さんはこういうペーソス溢れる役柄させると天下一品だよなあ。私の大好きな福助さんは二役ともにはじけまくり、扇雀さんとの姉妹コンビも抜群で楽しかったです。
初演の時はお兄ちゃんばっかり見ていた平井兄弟、今回は弟を特化して見てきました。実際はお兄ちゃんなのに、弟キャラがはまるな勘太郎くん(笑)。染さまと二人での立ち回り、お見事でした。

初演の時は最後の展開を知らずに見ていたのですが、今回は最後を知っている分、紅葉の中の辰次の独白が切ないったら。「まだまだ生きてえ、死にたくねえ。生きてえ生きてえ、散りたくねえ。そう思って散った紅葉の方が、どれだけ多くござんしょ。」それまでの、徹底的に笑わせるシーンの連続からここの独白で一気に泣かせるところがたまりません。

何をどう楽しんでも私は別にいいと思う。この芝居をNODAMAPだって言うのも観客の勝手だしこんな新喜劇みたいな芝居歌舞伎座でやるなと言うのも勝手だし、これが新しい歌舞伎だ!と興奮するのも勝手だし勘三郎は天才だ!というのも勝手だ。観客は自分の観たい文法でしか舞台を見ないしそれでいいと思うんだ。私がこの芝居を好きなのはどれだけ祝祭の顔をしていても、その底辺にしっかりとある野田さんの意識、「この綱を切らせるのはおれの手じゃねえ、あの声だ」と辰次が言う、その「声」という存在への意識が感じられるから、そしてなによりもその枠の上で自由に飛び跳ね、人間というものの楽しさ哀しさ形にしてくれる中村勘三郎というひとの気概が感じられるからだと思います。

でも本当になにより、みんな楽しそうなんだよなあ。それが高い金を払ってあの舞台を見に行くお客さんへの、なによりの「おみやげ」じゃないかと思うんだけども。

*1:全五段あるうちの、四段目の切場という意味だそうです。