「近代能楽集」

元の能の舞台も、三島由紀夫さんの本も未読。まず「卒塔婆小町」、休憩を挟んで「弱法師」。蜷川さん、三島さん、能楽集、となんだか縁遠いような感じがしていて、今まで再三見る機会はあったにも関わらずスルーしておりました。今回のお目当てはもちろん藤原竜也くん。
話としては「卒塔婆小町」の方が好きでした。見終わった後またネットでいろいろと調べてみたのだけど、元の能のほうの舞台がすごく気になっております。観てみたいかも。
「何かをきれいだと思ったら、きれいだというさ、たとえ死んでも」という詩人の台詞がすごく印象的。「昔、私を美しいと言った男は皆死んだ」というのはもちろん逆説的な言い方にすぎないのだけど、詩人が気付かずに巻き戻した針が、一瞬のうちに解き放たれて人生の絶頂を通り過ぎて死んでいく、というシーンが素晴らしかった。
小町役の壤晴彦さんも凄いの一語なのだが、久しぶりに拝見した(大阪にはなかなか来てくれないのね、洋さんはね)高橋洋さんの詩人がよかった。っていうか、小町の手に取りすがるシーンあたりからエロくてエロくて、「君は美しい」と言って死んでいくところなんていいのかこんなもの見せて、というぐらいえろかったです。すげーどきどきした。

これだけの出番で嵯川さんや鷲尾さんが出ているのがすごい・・・と妙な感動をしてしまった「弱法師」。圧巻はなんと言っても後半の藤原竜也の独白ですが、そこに至るまでの裁判所で二組の夫婦が俊徳の言いなりになっているシーンもよかった。俊徳と級子の二人だけにひんやりとした空気感があって、親たちの狂騒ぶりがなんだかいっそう哀れだったり。
幸運なことに3列目のど真ん中で見させていただいたのですが、後半俊徳が舞台の中央に歩み出てくるところ、藤原くんの目に確かに燃えさかる炎が映っていると思わず思ってしまったほどの表現力、イメージの喚起力に脱帽。身を乗り出すどころか、あまりの迫力に圧されてちょっとのけぞり気味になってしまった私だ。対峙する夏木マリ姐さんの底知れぬ冷ややかさも印象的。かっこよかった・・・