「猫と針」キャラメルボックスチャレンジシアター

キャラメルの公演、なんか久しぶりに見る気がするなあ、と思って調べてみたら2年ぶりだった。そんなに昔でもないじゃんって話だが、しかし2000年ごろまでほとんど10年間にわたってすべての公演を見ていたのだよ、そこから距離を置くようになって久しいなという実感はすごくある。

で、そういう人にこそ、見てもらいたい芝居に仕上がってるなと。「いつものキャラメル」を見ることに慣れすぎてしまった人であればあるほど新鮮にこの作品を見ることができるんではないでしょうか。演出横内さんのおっしゃる「塩キャラメル」とはいい得て妙。

高校時代の同級生5人。今日はその仲間の葬式でもあり、映画監督となったひとりの仲間の依頼から始まった「ドキュメンタリー風」映画の撮影の日でもある。「人はここにいない人の話をする」というキャッチコピーどおり、まるで芥川龍之介の「藪の中」よろしくその人たちから見た「真実」とやらが会話で積み重ねられていく。

作家恩田陸さんの初戯曲ということですが、観客に対する信頼度がとても高くて、そこは好きなところでした。普通の人ならもっと説明したくなると思うし、もっととっつきやすい種明かしみたいなものに色気を出してしまいそうなところを、かなりストイックに書いてる印象。逆に言えばサービス精神が不足気味かな?と言えなくもないけど、せっかくいつものキャラメルと違うものを目指すのならこれぐらいの噛み応えのあるテイストでいいんじゃないでしょうか。

撮られたものにしかリアルを感じることができない、という最後の独白は、体験や経験を書くことに繋げないではいられない作家としての心情のようにも思え、個人的にはとてもぐっとくるシーンでした。

横内さんの演出も、ナチュラルなたたずまいを貫いていて、照明器具の上下だけで日常空間とモノローグでの心象風景を切り分けるところなんかは見事だなあと。

キャラメルで何度も見たけれど、特に好きでも嫌いでもなかった前田綾という女優さん、この公演、彼女を見るだけでも価値があると思います。すごくよかった。独特のテンポとテンションを持つキャラなので作りやすい部分はあるとしても、それにしてもすばらしい存在感だったと思う。逆に坂口さんは、もちろん実力もあるし手堅い存在ではあったけれど、やはりいつもの彼女の癖のようなものが端々に見えてしまうところが多かったです。私の脳内にキャラメルでの坂口さんが刷り込まれすぎているというのもあるとは思うけど、でも同じぐらい見ている岡田達也がそこまで匂いを感じさせなかったことと比べると、もうちょっと違うテイストを見たかったなとも思う。そして前田綾さんと並んですばらしかったのが石原善暢。登場人物中もっともヘビーな「自分」を見つめるヤマダという登場人物を見事に立ち上がらせていたと思う。台詞を喋っているときだけではなく、なにもせずに立っているときにもその重い空気を感じさせるというのはなかなかやるなああ、と感心しきり。私の大好きなクボッティーこと久保田浩さんは、さらりと空気を変えることのできる名手っぷりを遺憾なく発揮してくれていて、やっぱうまいなあ、と。

すごく面白い試み、チャレンジシアターというだけでなくて、劇団員のいつもとぜんぜん違う顔を引き出すことに成功しているし、人気作家の初戯曲というこれからにつながると演劇界をいっそう面白くしてくれそうな成果もあって、プロデュース公演としては大成功じゃないでしょうか。塩キャラメルがたいへんに気に入ったものとしては、またこういう企画を立ち上げてみてもらいたいなあと願っております。