「二月花形歌舞伎 女殺油地獄」

ルテアトルの下手最前の1ブロックを仮設花道にしてました。舞台が高めなので中盤の席の方が見やすいかもと思ったり。

徳庵寺堤」から「豊嶋屋逮夜の場」までを上演。しかし、これが約300年近く前に書かれた戯曲とは、与兵衛が現代的というよりは人間というのは昔から大して変わらない、ということなのかも。ちょっと前に倉持裕さんが翻案した「ネジと紙幣」の中の人物造形が何の違和感もなかったのもむべなるかな。

ただのイキがってみせる若者かと思いきや、河内屋内でみせる与兵衛の徹底的なまでの利己主義には恐れ入るし、かと思えば涙ながらに改心を訴えてみたり…と、与兵衛という人物の心情というものにはなかなか乗っていくことができないんですが、素知らぬ顔でお吉の供養に向かおうとする与兵衛が「金さえ貸してりゃこんなことには、」と思わず呟いた、あの一瞬がいちばん与兵衛という人物を象徴しているような気がしました。すっと顔の表情を消して、その場に言葉を置くように呟いた、あの時の染五郎さんの佇まいはよかったです。

亀治郎さんの女形をひさしぶりにがっつり見られたのも嬉しかったなー。上方の芝居、という感じは染五郎さんとともに薄くはありましたけど、ふたりのトーンは揃っているのでそれほどの違和感もなく。

豊島屋での殺しの場、もちろんもうどの場面も様式美としてすごい、というのもありますが、ただ様式だけではなくそれぞれの情ががっつり伝わってくるとことがたまらないですね。殺される、と思った瞬間に我が子のことを真っ先に口にするお吉、震えながらも店の掛け金をかき集めることに余念のない与兵衛、あのお吉の帯をたどって店をあとにするところとか、なんだろうもうこのト書き書いたひと天才だな!って感じがありますよね…。血まみれ、油まみれのふたりが腕をはっしと掴んで見得を切る、ああいうカタルシスは歌舞伎ならでは。

ルテ銀、仮設とはいえ花道もできるし回り舞台もあるしで、新しい歌舞伎座が開場になるまではこれからまた足を運ぶ機会もありそうですね。