「四月花形歌舞伎 昼の部」

◆葛の葉
「元禄港歌」の中で披露される瞽女唄の「葛の葉子別れ」ってこれかああ!とポン(と手を打つ)。安倍保名に助けてもらった恩を返そうと白狐は許嫁の葛の葉姫に化けて保名のところに嫁入りし、子をもうけるが、本物の葛の葉姫があらわれて…という筋書き。2人の「葛の葉」をひとりの役者が演じるので、前半はその早替えも大きな見どころ。しかし、この早替えのフリのうまさというか、観客の予想が「あっまた次変わるに違いない…」と思う一歩手前でその趣向をすぱっと切り上げるのとか、よくできているよなあと思いました。七之助さんが子をあやす仕草のうつくしさと、あの障子に文字を書いていくというウルトラCぶりが炸裂する後半がすごい。しかしやはり異類婚姻譚というのは根強いですね。根強い人気。

◆末広がり
楽しい一幕でした…勘九郎さんファンには御馳走のような時間。よいお席で拝見できたので、あの美しい手の所作を舐めるようにガン見しました。ああ、勘九郎さんの踊り、本当に大好き。

物語は、「末広がり」を買ってこいと命じられた太郎冠者が、「末広がり」が何かを知らないまま都にきて、唐傘を買わされてしまう…という筋書きなのだが、勘九郎さんご自身は決してそんなことないと思うのに、こういう純なというか、朴訥なというか、目から鼻に抜けない男性をやらせると本当に輝く。でもって、買わされるのが唐傘というのがこの話のいいところで、なにがいいって傘を使った所作をばっつり堪能できるんですよ!!軽く振ってすぱんと開いてみせるのもだし、その傘を使った所作もふんだんにあって、ああ〜〜かみさまありがとうございます〜〜と拝みたい気持ちであった。太郎冠者がひそかに想いを寄せるお嬢さんが鶴松くんで、ふたりの踊りのほほえま〜な雰囲気もよかったです。

女殺油地獄
与兵衛を菊之助さん、お吉を七之助さんで。菊ちゃんの芸の品の良さというか、端正さがよくあらわれた一幕だった。なんというか、ものすごい悲劇に見えた。いや、もちろん悲劇は悲劇なんだが、「こうならない未来もあったのではないか」と思わせる悲劇。与兵衛という男は、基本的に深く思慮するということをしない男で、場当たり的なものの考え方がかれを破滅に導くわけだけれど、菊ちゃんの与兵衛にはどこか「この与兵衛はどこかで後戻りできるのではないか」という雰囲気が感じられ、それはやっぱり菊ちゃんの持ち味である品の良さから来ているのではないかと思う。だからこそ、お吉があそこで金を貸すという決断さえしていれば、ふたりともに救われたのではないかと思わされるのだが、そこは感想が別れそうなところだなとは思った。あそこでお吉が金を貸していてもいなくてもこうなった、と思わせる与兵衛像も私は好きだし、そのほうが殺しの陰惨さも際立つような気がするので。

しかし、油にまみれてつるつると覚束なくなりながら、男が必死の形相で女の命を絶とうとする絵面というのはそれだけですさまじい。あの場面で、笑いが起こるのはグロテスクでもあり、それを見越して書いているのだとすればちかえもんおそるべしとしか言えないわけだが、そのこっけいさを陰惨さがねじ伏せる様というのも見てみたい気がします。