「たいこどんどん」

そもそも井上ひさしさんがご存命であれば、このコクーンには新作がかかる予定だったし、さらにはそれは中村勘三郎古田新太がタッグを組んで、ということになる、はずだった。ということを、最初は少し意識していたところもありましたが、この一本、として選んだ作品が「今」にとてつもなくマッチしていたことのほうに次第に意識が傾いていった感じがします。

井上ひさしさんの初期作品を蜷川さんが手がける、イコール「芝居が長くなる」、なぜなら蜷川さんは台本のカットをしないから!というわけで本作も実に休憩含んで3時間40分の長丁場です。ロビーで売っているどんどん焼きの匂いが休憩時間に猛烈に食欲を刺激すること請け合いです(請け合うな)。でも物語が波瀾万丈なツクリになっているので、自分としては集中してみることができたかなと。

しかし、古田さんはねえ、相当苦戦していましたよこれ。この回だけなのかまだ仕上がってないのかわかんないですけど、ほんっとに噛み倒してたし、へたに一番前の席だったっていうのもあって呼吸や表情が近すぎて終始ハラハラしました。謎かけのとき謎が出てこなかったもんね…それでもしれっとやり通すとこはすごいんですけど。まあでも「藪原検校」の時も思いましたが、そもそも台詞でまくし立てて押す、みたいなタイプじゃないと思うんだよなあ。
とはいえ、ここははずしてはいけない、というところは絶対に決めてくるので、その辺は演出家の信頼の証なんだろうなという気もしました。

対する橋之助さんはね、やっぱり所作でもなんでも板についているし、台詞のトーンも含めてこういった設定においては頭1つ抜きんでてる感じがありましたね。そしてこういうところで観ると、ほんと歌舞伎役者ってえのは引き出し多いねえと感嘆せずにはいられない。これ相手が橋之助さんじゃなかったら結構つらい観劇になったかもしんないですマジで。

でもって、私はなぜか鈴木京香さまの舞台を3本とも観ているという…なして。しかしダントツで今回のがよかったです。京香さんもすんげえイキイキしてたし、東北出身ってこともあるのか、方言での台詞もなんなくこなしていて絶品でした。

大店のおぼっちゃんとその幇間は、ひょんなことから釜石に流され、そこから東北地方を転々と放浪するわけですが、江戸に帰りたい帰りたいと願う彼らを待ち受けていたもの、そしてそれを一瞬のうちに「今」にリンクさせる、台詞のひとつも変えずにこの舞台をリアルにしてみせたのは蜷川幸雄の面目躍如だったとおもいます。