僕らはまた、近いうちに再会する

2016年の演劇界をふりかえったとき、やはり何と言っても大きかったのは蜷川幸雄、そして維新派の松本雄吉というふたりの偉大な演出家をうしなったことだと思います。

どんな舞台にも、その演出家のサインというか存在を感じることができるのは当たり前ですが、蜷川さんも松本雄吉さんも、なかでもきわめてそのサインのはっきりした、確固たる演出家としてのカラー、場面を作るときの絵、その世界を表現するためのスキルと情熱を持っていた演出家で、だからこそ、このふたりの不在というのは余人をもって代えがたいものがあるように思えます。

わたしはおふたりの良い観客であったとは言えませんが、演劇というものを決して神棚にまつった「ゲージュツ」ではなく、私たち観客と地続きのものであるというところから視点がぶれることがなかった、どれだけ規模の大きい公演を打ってもそれがぶれることがなかった、だからこそ、偉大な演出家であると同時に、私たち観客の味方であるような気がしていたところがあったような気がします。

そして蜷川さんとたくさんの素晴らしい仕事をしてきた平幹二朗さんも、後を追うように亡くなってしまいました。突然の訃報で、直前まで、ほんとうに直前まで舞台に立ち、役者としての素晴らしい仕事を見せてくださっていただけに、残念でなりません。平さんが蜷川さんの弔辞で読まれた、「タンゴ・冬の終わりに」の台詞、僕らはまた、近いうちに再会する…その時がこんなに早く来てしまうとは。

最後の最後まで、演劇に対する前向きな情熱を喪わず、わたしたちに観たことのない世界の一端を見せてくださったこと、忘れません。
本当にありがとうございました。