「三谷幸喜のショーガール(Social Distancing Version)」

土曜日の朝、例によってベッドの中でうだうだしていたら、ツイッターのTLにブリーゼで今日「大地」2公演のあと「ショーガール」を公演する、とあって、あ~今日からなのか…って調べたら土日のみの公演で、さらにチケット見てみたら当日引換券が売っていた…というわけでその場でポチり、急遽日曜日に出かけてきました。本人の体調との折り合いなどなど、「出かける」ためにクリアしないといけない要件が多い中、今後はこうした「直前に決めて見られる」ことが多くなってくるかもしれないな。

劇場の中に入ってまず「うおっ」っと思ったのが、「大地」のセットをそのまんま、本当に、そのまんま(ベッドも!)流用してることでした。演劇ってすごいね!独裁主義者下での強制収容所を現していたものが、設定と照明と役者の芝居で高級ホテルの一室になにもしなくても見えてくるこの楽しさ!演劇とは見立ての芸術、まさに!といったところ。

第一部は「告白」がテーマのお芝居+歌。開演前に演者同士が接近しすぎないよう「ソーシャルディスタンス」をネタに一曲歌う余裕もあったりして。芸達者なおふたりだし、まったく立場の違う二人が会話しながら一本のストーリーを編んでいく…っていうのも、これ三谷さんお得意のシチュエーションだし、かと思えばかなりビターに終わったのでわっ、そうなの?と思ったり、意外性もあり楽しかったです。

第二部はシルビア・グラブさんと川平慈英さんがこれでもか!と「告白」をテーマにスタンダードナンバーを歌いまくるショータイム!いっやーーー楽しかった!!!音楽の!!力!!!といつもよりエクスクラメーションマーク多めでお送りしちゃうほどに楽しかった。音楽の高揚感ってやっぱりどこか特別のものがありますね。シルビアさんがエアギターをかき鳴らすWALK THIS WAY最高だったな。歌い継がれるナンバーの力強さにも改めて感じ入りました。あとこの流れでいけば絶対やってくれる気がする…!と思った「君の瞳に恋してる」!この曲の多幸感すごい。興奮で胸がつまるなんて本当に久しぶりの感覚だった。

ラストナンバー、おふたりがこの曲だけ手を取って(それまでお互いが2メートル以内に近づくと警報が鳴るというネタが仕込まれている。それでも近づきたいときはアクリル板が登場するという念の入れよう)踊るのも、たったそれだけのことなのに心が沸き立つ感じがあった。そのあとふたりで向かい合ってアルコール消毒をし合うのも、時流取り込むやん~~!感すごかった。ここに来れば憂さも晴れる、それが劇場、それが希望…。そして電光掲示板に映し出される「NO STAGE , NO LIFE」の文字。音楽で心が解放されてたってのも相俟って、ほんと涙が噴き出ました。

わたしの観た回が大千秋楽ということで、本当にお疲れ様でしたと言いたいです。たいへんな状況の中、大阪公演を敢行してくださってありがとう…。観に行ってよかった。

それにしても、三谷さんはタフだな。状況が変われば、その状況に合わせて書き直す。何度でも書き直す。かつて連続テレビドラマの脚本で体験した各方面からの横槍を「ラヂオの時間」という名作舞台に昇華させただけのことはあります。いつも仰ってますもんね、障害があればあるほど、制約があればあるほど燃えるたちだって。このタフさ、強靭さは三谷さんが柔軟だからこその強さで、本当に「笑の大学」の椿そのものじゃないかと思ったり。作品は直す、演出もし直す、脚本にも手を入れる。そこはいくらでも譲る。それができるのは、三谷さんが「役者がいて劇場があって台本があれば、そしてそこに観客がいれば、幕を開け続ける」って信念があって、だからこそできることなんだろうと思います。

一席飛ばしの客席は、観る側としては確かに快適なのは否定しない。でもこの日はいっぱいの客席で迎えてあげたかった、満場の拍手で讃えてあげたかったなって心から思ったし、そういう日が1日でも早く戻ってくることを祈らずにはいられませんでした。