「九月大歌舞伎 第三部」

仁左衛門さま・玉三郎さまによる「東海道四谷怪談」。中村屋さんが東海道四谷怪談をよくおやりになるので、私も勘三郎さん・勘九郎さん・七之助さんそれぞれお岩さまを演じたのを拝見したことがありますが、このコンビによる上演はなんと奥さん、38年ぶりですってヨ!これは…これはさすがに観たい!観させて!このあと霞を食って生きていってもいいから!ということで足を運んできましたよっと。

いやまず、東海道四谷怪談て、やっぱむちゃくちゃよくできた話、物語として、演劇として作品がまずおもしろい、その強度をすごく感じましたね。中村屋でやるときは、後半かなりスペクタクルになることもあって演出の強さに気をとられがちだけど、今回は伊右衛門浪宅と隠亡堀をじっくり見せてくれたのもあったと思う。

とにかく仁左衛門さんの伊右衛門も、玉三郎さんのお岩も、ものすごく丁寧で、ぜったいに観ている客にいま舞台で起こっている逐一を伝えきります、という姿勢が貫かれているのがすばらしい。血の道の妙薬、と伊藤家から渡された薬を岩が丁寧に丁寧に飲む所作のひとつひとつがまさに「実のある」芝居なのはもちろん、そのあと奥に下がった岩と宅悦との会話、「お顔が…」「顔が どうしましたえ」のあの「顔が」の劇的効果を完全に把握した間のうまさとかね、もう舞台で起こるすべてのことにうっとりできる。

仁左衛門さんの伊右衛門ピカレスクロマンじゃないけど、これだけ悪くてこれだけ魅力的って、ほんと稀有なお方ですよ。蚊帳までとりあげるところ、マジで非道1000%なのに、そこを芝居として魅力的に見せちゃう。

がっつり集中して芝居の力を堪能した2時間でした。松緑さんの直助権兵衛、橋之助さんの小仏小平、松之助さんの宅悦も印象的でよかった。観に来た甲斐ありました!