「アンドレ・デジール 最後の作品」

脚本・歌詞高橋亜子、音楽清塚信也、演出は安心と信頼の鈴木裕美というタッグで正真正銘本邦初演のミュージカル作品。IP絡みの新作が業界・ジャンル問わず多い中で完全オリジナルに挑むというのは貴重!とはいえ、最初からチケット取ってたわけではなくて、初日が開けてからの評判の良さに「おっ、そんなに言うなら(言ってない)見に行こうかな」と足を運んできた次第。こういうフットワークの軽さだけは自慢できる。でもってこれは本当に心の底から言うけど、特に演劇においては口コミ以上の信頼できる指標マジでないかもしれん。むちゃくちゃ面白かったです!

主人公のエミールはいわば「憑依系」のアーティストで、物語のバックボーンに心が寄り添えば寄り添うほど筆が走るタイプの画家。一方ジャンは明るく屈託のない、ちょっとオタク体質の愛好家で、ふたりはひょんなことから知り合い、アンドレ・デジールという画家の大ファンであるという共通項からまたたく間に友人となる。エミールの「憑依したように描ける」能力で贋作を描いて収入を得る彼らだったが、最初は普通のビジネス(贋作を贋作として売る)だったはずが、段々とグレーな「贋作ビジネス」に巻き込まれていく。これっきりにしようと思うふたりのもとに舞い込んだ最後の依頼は、ふたりの敬愛するアンドレ・デジールの失われた「最後の作品」を描くことだった。

「絵画」という、なかなか演劇で扱いにくい題材を(その『絵』を具体的に見せるかどうか、演出の腕ですよネー)取り上げつつ、またエミールの能力が絶妙にリアルなのかそうでないのか、という線を取っているんだけども、最終的に物語の流れ込むのがエミールとジャンの関係という、その落としどころがあまりにも絶妙で、本当に脚本のバランス感覚が素晴らしいなと思いました。不慮の事故で死んだ著名な画家が最後の作品を描いたときに何を見ていたのか、というミステリーのような要素が絡むのもうまい。

でもって、エミールとジャンが、本当にお互いがお互いにとって大切なんだけど、それゆえにある一つの出来事から、「自分が相手のことを思うほどには、相手は自分のことを大切に思ってはいないのでは」という想いにとらわれ、どちらもお互いの手を離してしまうのも納得のいく描き方だったし、だからこそお互いがお互いをずっと思っていたことがわかる最後の展開はなんつーか、エモが天元突破しすぎてどうしようかと思いました。まさに時間をかけて、時を超えて届く手紙のようなあのシーン!

メインテーマ「二人なら」も実に良い楽曲で、「蒼ざめた海をゆく人生は孤独な旅 だけど迷えばお前が 迎えにゆく 船を出して」というフレーズなんか、終盤になればなるほど泣けるフレーズに変貌していくのがたまんなかったですね。

映像の使い方も効果的かつ最小限で裕美さんのこのセンス、まじで信頼しかないと思いましたし、本邦オリジナルミュージカルとしてどしゃめしゃにクオリティの高い作品だったなーと思います。これはマジで再演待ったなしでしょ!!!いろんな顔合わせで観てみたくなるぞ!!私が拝見した日が上川&小柳ペアの千秋楽で、本作がミュージカル初挑戦だったという小柳さんがカーテンコールで感極まって泣いちゃったのすんげえかわいかったです。でもって泣きながらブルーレイの宣伝してたのめちゃ面白かったです。カーテンコールの最後にふたり目を合わせて、特大のビッグハグを交わして讃えあってたの、マジでエモのエモがエモすぎて尊いの海に私は沈みました。今回ご覧になれなかった方も再演があったらぜひ足を運んでエモの海に沈んでつかーさい!!!