「ダム・マネー ウォール街を狙え!」


2021年にアメリカで実際に起こった「ゲームストップ株騒動」を映画化(BASED ON TRUE STORYってやつ)。監督は「アイ、トーニャ」を撮ったクレイグ・ギレスピー

私は株式に一切手を出していない人間ですので、株の専門用語どころか、そもそもの構造自体もいまいちよくわかっていないながら、それでもぜんぜん楽しめる作りだし、こういうことが実際に起こったってことがスゲーなと単純に感心してしまいます。もしこれからご覧になる方にアドバイスがあるとすれば、「空売り」と「踏み上げ」という単語の意味を調べてからいくことをお勧めします。あとなにげに「1万ドル」って言われたときにそれが瞬時にいくらくらいなのかって感覚あると尚良しです。ちなみに現在1万ドルは約150万円相当。つまり10万ドルは1500万、100万ドルは1億5000万、1億ドルは…(もういい)。

物語の構図としては、ゲームソフトの小売企業である「ゲームストップ」の株を空売りして儲けを企むヘッジファンドと、それに対してyoutube掲示板で横に連帯する小口個人投資家たちがゲームストップ社の株を買い、同社の株価を高騰させることでヘッジファンドに一泡吹かせるというもの。個人投資家たちを先導するのは「ローリング・キティ」のハンドルネームでゲームストップ株が「買い」であることを訴えるキース・ギルで、これをポール・ダノが演じています。

登場人物たちが出てくるたびに名前とともに保有財産が出てくる演出、ヘッジファンド側のスノッブさ(と保有財産の桁違いさ)が如実で、だからこそそのあとなけなしの手持ち金でゲームストップ株を買い、買うだけでなく買いを支えようとする彼ら彼女らの姿はねえ、やっぱちょっとぐっときますよ。これまさにみんな大好きな「てめえが雑魚だと思ってる連中の力、見せてやろうじゃねえか」魂にほかならない。実際、小口投資家の連帯といってもそれは目に見えない(顔も知らない)ネット上の存在に勝手に感じる連帯感にすぎず、ひとつ間違えればただただ個人の資産をドブに捨てる愚かな投資(ダム・マネー)まっしぐらなわけだけれど、だからこそ紙一重でその連帯を繋ぎきったこの物語がこうして愛されるのもむべなるかなという気がします。

あと、この舞台は2020年、まさに世界がコロナウイルスによる大打撃を受けていたときを描いており、たった4年前のことながら、「あのとき」の空気をきちんと掬い取っているのもよかった。マスクのずれを執拗に指摘する店長(キャスティングまさかすぎる)、エッセンシャルワーカーという言葉、家族をコロナウイルスによって喪う悲痛と、それがすぐ身近にあった空気…。この綱渡りの連帯が成功したのは、あの鬱屈した空気の中で、庶民をあざ笑うかのように市場を操作していた一部のビリオネアたちへの反骨精神だったのかもしれないなと思いました。

ポール・ダノ、見るたびに違うタイプの役をやっていてホントにおもしろい役者さんですよね。キースの弟ケヴィンのはちゃめちゃぶり(あんなウーバーの配達員普通にいやだよ)と、それでも兄に喝をいれる兄弟らしさあふれるシーンは素直によかった。ちなみにセバスチャン・スタンも出てらっしゃって、ギレスピー監督作品と縁がありそう。移民の子という出自はご自身と重なるところもあり、それで声がかかったのかな?