「ネクスト・ゴール・ウィンズ」


アメリカ領サモアのサッカー代表の実話を元に映画化。監督はタイカ・ワイティティ。系譜としてはみんな大好きクール・ランニング系とでもいいましょうか、弱小国が奮起して「ナンバーワンになれなくてもいい、もともと特別なオンリーワン」という着地をみせるスポーツコメディもの。何を隠そう私はこの手の映画が大好き。というかスポーツにおけるジャイアントキリングを好きじゃないなんて人いるだろうか!?いやいるか(弱気)。

2002年のワールドカップ予選でオーストラリアと対戦し、0-31の史上最大の大敗を喫してしまうアメリカ領サモア。ただの1ゴールも挙げられない代表に業を煮やした協会は、短気ですぐに爆発してしまうオランダ人コーチ、トーマス・ロンゲンを監督に招聘する。押し付けられた仕事にうんざりするロンゲン、彼のやり方に全く賛同できないチーム。不協和音しか聞こえない中で果たして彼らは「1ゴール」「1勝」を手にすることができるのか!

サッカーにおける0-31の得点の異常さは、かつて日本ラグビーオールブラックスに145-17で敗れたことを凌ぐといってもいいかもしれない。何しろサッカーは1点を争うスポーツなのだ。Wikiで調べてみるとトーマス・ロンゲンはかの名門アヤックスに所属していたこともあるらしく、彼がこのアメリカ領サモアでの仕事に辟易としているのもむべなるかなと思える。

しかしながらこの映画の面白いところは、選手たちがロンゲンのやり方を信じついていく…というだけではなくて、同時に「変えられないところは変えられない」と泰然としているところ。これはサッカーで、ただのゲーム。勝っても負けても明日は来る。でもできれば勝ってみたい。点を取りたい。ロンゲンが徐々に彼らと目指す未来を見つけていく様子は、ある意味もっとも変化したのはロンゲン自身なんだってことが表れててとてもよかったです。

トンガ代表との対戦で、かつての同僚たちと気まずい再会をし、それゆえに試合の成り行きに苛立ちを隠せないところとか、あるあるな展開なんですが、ハーフタイムにとうとうロンゲンが自分の傷を語り、彼らに「思うように楽しんで来い」というところ、あるある、王道ではありつつも泣いちゃう私だ。スポーツによって得られる興奮、スポーツにおいて物語を見出し、それに肩入れしてしまうことは、ちょっと紙一重なところだと思うんだけど、でもあのスポーツによって得られる熱狂というのはほかのどれともちょっと違うものがあるんですよね。

トランスジェンダーの選手について、「第三の性」を「ファファフィネ」ということ、それが自然なあるべきものとして受け入れられているのを見ると、自分たちが「自然」とか「あるべき」とか言っているものは誰かが作った「自然」に過ぎないんだなあと思わされますね。

これも実話の映画化あるあるですが、エンドロールに実際の映像が流れるの、マイケル・ファスベンダーけっこう本人の風格あるなと思いました。あとね、私は最近よく欧州のサッカーの試合を見ているのですが、この先の、そのまた先の、そのまた先の先の先にあの世界があるんだなあと思うと、サッカーという競技の裾野のすさまじさを思い知らされる気がしました。