「千と千尋の神隠し」

2022年の初演が大評判をとり、みるみる間にチケット確保が大激戦となった作品がロンドン公演を含む大規模再演。初演は様子見しているうちにまったく手に届かなくなってしまったので、今回はかなり早めにチケットを押さえました。私の見た回の千尋役は川栄李奈さん。

なるほど評判をとるのも頷けるし、再演でさらに規模がでかくなるのも頷けるなと。一番の感想は「これはコンテンツとして強い」。なにしろ「鬼滅の刃」に抜かれるまで、圧倒的ぶっちぎりの日本興行収入ナンバー1、前人未到の300億円を達成した作品の舞台化で、かつ2年に1度はゴールデンタイムにテレビ放映されているという原作の下地力がすごい。この舞台化のうまいところは、その原作の下地力をぞんぶんに活かし、「映画で見たあの世界」を手触りのある実体として出現させることに成功していることじゃないでしょうか。プロジェクションマッピングなどの映像での表現は最小限にして、妙に演出もデコラティブにせず、独自の解釈にも走らず、人間の身体能力で見せる手法が実にハマっていたと思います。

もちろんキャストそれぞれのファンを呼び込む力もありますが、そもそも作品としての集客力が非常に大きいし、キャストもまず何よりあの世界の登場人物としての色合いが強く出るように作られているので、これはむちゃくちゃロングラン向きですね。2年に1回とかのペースで再演しても集客ができるんじゃないかと思う。

原作の映画はもちろん拝見してるんですけど、そう何度も見たわけではないので、ああ~そういえばこうだった、こんなシーンあったなと思い返しながら観ておりましたが、しかし正直「千と千尋」がジブリ作品の中でもここまで圧倒的に支持される理由って私にはちょっとぴんときていないのかもしれない。逆に言うとそういうスタンスの人間でもしっかり楽しめる舞台に仕上げているのがさすがです。

映画でも印象深い電車に乗って銭婆に会いにいくシーン、あの端境感というか、あっち側を覗き込むような寂寞とした感じが実にうまく出ててよかった。油屋の登場人物たちも登場する神々の造形の絶妙な手作り感もほどよく、楽しい観劇でした。