「天保十二年のシェイクスピア」

なかなかね、感想が難しい公演ではあるなぁと(笑)しかしもともとの脚本の、37本のシェイクスピア作品をすべて織り込むという「趣向」から考えても、劇協10周年というお膳立てから考えても、一種お祭り的な見方が一番合ってるのかなぁという気はします。そしてそういう意味ではとてつもなく成功していたとも思います。

個人的にいのうえひでのりさんの演出の魅力は、ばーんとド派手なケレン味たっぷりの演出に、一種浪花節的な筋書きを乗せてしまうところだと思うんですけども、今回は浪花節ではないからねえ。キャラクターの性格も当然ころころと入れ替わるし、客としてはあまり感情移入はしにくいですよね。しかしラストのおさちの鏡のシーンから三世次の死に至るまでの怒濤の展開は流石いのうえさんだなあ!と思いました。あそこが一番ドキドキもし、ハラハラもし、気持ちも盛り上がってくるのは脚本をあそこまで立ち上げることの出来るいのうえさんの膂力だなーと。いのうえさん的にはああいう展開はお手のもん、なんでしょうけども。あとオープニングの見せ方も上手い。あれだけで世界に入っていくことができるよなあ。

元ネタになっているシェイクスピア作品ですが、これが意外にも大きな展開に絡んでくるやつはなんだかんだと舞台で観たことがあったので、ああ、あの芝居から取ってるんだなーという楽しみはまあ、できたかも。というかシェイクスピアそんなに好きじゃないのにそれだけ観る機会があったってことが、如何にシェイクスピアが数多く演じられているかという証明のような気もします。でも元ネタ知らなくてもそれなりに楽しいんじゃないかなぁ。どうなんでしょう。まあ「あなたはどうして王子なの」のセリフできた笑いを考えれば、本当はもっと笑えるセリフが他にも仕込んであったのかもしれませんが。あと、一つ一つの言葉のセンスが流石だなぁとも思いました。うまい日本語っつーのかなぁ。「身幅の狭い着物」とかね、役者が言ってみたくなるセリフだなぁと思ったんですが。

でまあ、私的には今回の舞台はいのうえ演出下での役者の個人技を楽しむ、というのがやっぱり主眼になっていたわけで(笑)ほんと、もうどこを見ろというのか!と言わんばかりのゴージャス感。あ〜〜〜堪能したわ。誰が一番、と言うと難しいんですが・・・阿部サダヲさんはやっぱりすごいなぁと。若さもあるんでしょうけど、体のキレが段違い。動く動く。歌は上手いし声はいいし。お冬とのシーンはかわいいし。古田さんはね、もちろん上手いし魅せてくれてさすがなんですが、ちょっとガラじゃないのかなーと思ったりもしました。だいたい最初のシーンからしてこんなに女に「させる」のが似合わない人も珍しい・・・って感じだったもん(笑)その点で行くと池田さんの九郎治は女に「させる」のがはまるはまる。二人ともものすごく色気のある役者だけど、古田さんは「する」、池田さんは「させる」色気なのね〜とか。って何を語っているんだ(笑)

女優陣ではやっぱり西牟田さんですかね。低音ボイス、しびれたわ〜〜〜!幕兵衛とお里の「死」の場面では圧巻でしたね。私的にはあのシーン、古田さんにもっと激しくなってもらいたかったなー。いやまあ演出なんでしょうけども。熊谷さんも良かったーーー。声がすごくかわいい人なのね。清滝の婆が個人的には大好きだ。それから新劇界からご参加の小林さん、森塚さん、高橋さん。当たり前だけどうまい!!!セリフが柄にあっているとでも言いましょうか。こなれている感があって観てて安心感あったなぁ。私は森塚さんの大前田の親分が大好き。あの迫力!台詞回し!さすがだよなあ〜!

お光・おさちの沢口さんは、うーん、まあ思ったより悪くないかなぁとか。お光の立ち回りはやっぱりどうかとも思ったけど。上川さんはね、最初観たときラストのシーンで「ああ、大きくなって・・・」とちょっと涙ぐみそうになりましたが(笑)でもね、あのーこういう言い方するのもなんですが、私はこれぐらいはやってくれるだろうと思っていたんですよ。うまいのはわかっていたことだし。もちろんこの大役を見事に果たして本当によくやった、と思っているんですけど。でも好きな役者さんなのでどうしても我が儘になってしまうんですが、説明できない力をもっと体現できるようになって欲しいなぁ、という気持ちも若干ありつつ。

しかしカーテンコールでずらっと並んだ(特に古田・池田・阿部)役者陣の豪華さにほんとーにくらくらしましたよ、マジで。

    • 04/06 K列37番

上川さんファンに怒られるかもしれないと思いつつこんな処にこっそり書き足しますが(小心者)、実はこの三世次は筧さんにやってもらいたかったなあと思ったりして。役柄的に、リチャード三世ってすごく筧さんに合ってる役のような気がするんだよねえ。古田さんにリチャード、って声も聞きますが、あんなフェロモン男が「この世の徒な楽しみを呪ってやる」って言っても説得力あるのか?みたいな(笑)まくしたて台詞の量といい背の小ささといい、筧さんにいずれやって貰いたい役のナンバー1だったりします。