「キル」NODAMAP

三演目のキル。とはいえ、初演と再演は続投キャストも多かったので、野田さん以外のキャスト総入れ替えでどういったキルになるのか、ことにテムジン&シルクに妻夫木聡広末涼子というフレッシュな二人をもってきて、話題騒然ではありました。

まずですね、私が妻夫木くんのテムジンに対して思ったこと、それは「堤さんと声が似ている!」です。似てる。マジで。今回、ありがたいことにというのか最前列での観劇だったんですけれども、目の前で勝村さんたちが小芝居していて目線はそっち、妻夫木くんの声だけ聴いてる、みたいなときが何度かあって、そのたびにうーわ、似てる、マジで似てると思いました。普通にしゃべる声はそんなに似てない、でも「そーうだろう」の「う」とか、「だったのだなあ」の「あ」とか、伸ばした母音のニュアンスが似てるんです。あと、二人とも声に奇妙な明るさがある。それは私がこの初演の「キル」で堤さんを見たときに思ったことで、野田さんの女優に対する声フェチぶりはつとに有名ですが、男性に対してもそうなんだなあっていう。

初演のキルを見た時にはですね、私は、ああ遊眠社とはやっぱりずいぶん変わるんだな、そう思った気がしていたんですけど、ここ近年の野田さんの作品を思うと、キルはやっぱり野田さんの昔のかおりがふんだんにする作品だったんですねえ。

テムジンが生まれて、その父親が死ぬまでのところがずいぶんカットされていたような感じがしました。あと使用曲もいくつか変わってましたね。とはいえ基本的には、演出は今までの形を踏襲、という感じでした。そして、相変わらず美しい。そう、野田さんの舞台は美しいんだ。

私のお目当ては結髪をやった勝村政信さんだったわけですけれども、結髪は初演渡辺いっけいさん、再演古田新太さん、そして今回の勝村さんともう私の大好物役者ばかり。この結髪という役の切なさ、シラノ的な味わいという点ではやっぱり初演のいっけいさんが一番好きですし、古田さんの結髪はそういう意味ではいろいろ余裕がありすぎたんだけど(笑)、でも緩急のつけ方、話を運んでいくうまさはやっぱりダントツだったと思う。で、勝村さんの結髪は、なんといっても終盤の、告発され追い詰められ、最後に切り札を明かすあのシーンが素晴らしい。ああいうシーンをやらせると勝村さんはほんとにほかの人にはない壮絶さが出る。のまれた、のまれたよ。

高田聖子さんの人形もよかった!鷲尾さんとはまた違う、聖子さんがやるとまだ「一発逆転」を狙ってそうな女の業まで匂わせるのがいい。ここぞ!というキメどころで観客を完全にさらってました。

広末さんのシルク、思ったより声の幅がある!それは嬉しい驚きでした。ああいう女優さんは見ていて楽しいです。妻夫木くんのテムジン、野性味という点ではやっぱり欠けるところもあるかなと思う。でもいいテムジンだったんじゃないかなあ。たったひとつの物語を信じて、それに賭ける青年のひたむきさ、というものが何よりも感じられてよかった。

初演、再演にはまったく思わなかったことなんだけど、この話はひとの「物語欲」を書いた作品でもあるんだなあと思った。それはもしかしたら妻夫木くんのあのひたむきさが見せてくれた、この作品の側面なのかもしれないなと思います。

Heaven & Earth

Heaven & Earth

1度聴いたら頭を離れない、このテーマソングは三演とも変わらず。