「ニンゲン御破算」

いきなりこんなことを書くのもどうかと思うが、実は私は大人計画の芝居の感想を書くことに若干の苦手意識がある。言うまでもないが、芝居自体は大好きだ。大好きというか、松尾スズキさんは絶対見逃したくない作品を見せてくれるひとであり、絶対に楽しませてくれる劇団だと思っている。だから観るのは大好きなんです、もちろん、言うまでもなく。でも感想を書くのがむずかしい。なんというか、松尾さんの書くものには一種独特の情動のようなものがあり、その芯を感じることはできても、うまく咀嚼することができてないんじゃないかと自分でぼんやり思ったりする。もう20年近く見ているのに今更何言ってんだって話ですが!

当時まだ勘九郎だった、中村勘三郎さんと松尾さんがタッグを組んだ「ニンゲン御破産」、あれが15年前と聞いて、まず慄くが、あの時はまだ歌舞伎も大人計画も見始めて日が浅かったというのもあり、面白かったけれどどこを捕まえていいかわからないという感じだったなーと思い出したり。ただ今回の再演はその松尾さんの独特の情動のようなものが少し整理されて、情よりも理が入っている部分があるような感じがして、そのぶん私にとってはずいぶん飲み込みやすく仕上がっていたなという印象。

初演は3部構成(2回休憩が入った)と記憶しているんですが、今回は一幕二幕をぶっ通したのでまあ前半が長い(笑)。途中で「いかにも15分の休憩が入りそうな~」とアナウンスでいじりながら今までの話の流れを南北である松尾さんと黙阿弥であるノゾエさんが説明してくださるという親切設計。あと、最後の展開は覚えていたので、それを意識して見ていたせいもあり、実之介と母親とのやりとり、ガセの介と言われて「それ、いただきました」と実之介が返す場面、実に細やかに種を蒔いていっているんだなーという感じで、こういう見方が楽しめるのは再演ならではかも。

初演は実之介がからっぽだ、からっぽだと叫ぶ二幕の(今回では第一幕の)ラストがとにかく印象に残ったんだけど、今回はそこも最後のどんでん返しに繋がった台詞なんだなというのがよくわかって、自分じゃない容れ物に自分を入れられてしまっているからこその空っぽさ、ということをこんなにも切実に描いた話だったんだなあと。歌舞伎役者の肉体を通して松尾さんが書こうとしていたものが15年経ってよりくっきりと見えてくるような気がしました。

阿部サダヲさんはさすがに松尾脚本が骨の髄までしみ込んでいるというかね、書いているひとの求める温度を的確に表現するだけでなく、常に倍掛けの熱量で客席をぐいぐい押してくるから本当にすごい。サダヲちゃんがやることによってのみ込みやすくなってる部分が絶対にあると思う。岡田将生くんは本当にどうかと思うほど強靭な喉をしてるよね。声が強い。サダヲちゃんもアホほど喉の強い人だけどそれに全然負けてない。舞台において強い声と強い喉を持っているってもうそれだけで100人力なのに、それであのビジュアル…しかも芝居も達者…二物以上与えすぎかよ!ってなりますね。松尾さんとノゾエさんの師弟コンビよかったなー。松尾さんの、きわきわのところで残酷な顔を見せたりするの相変わらずぞっとするうまさ。マイラヴ小松和重さんも安定の活躍ぶり、そして平田敦子さんの仕事師ぶりが際立って輝いて見えました。