「パッドマン 5億人の女性を救った男」

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インドで慣習や偏見と闘いながら安価な生理用品の開発と普及に尽力した実在の人物をモデルにしたインド映画です。R・バールキ監督・脚本。東京国際映画祭の招待作品にラインナップされているのを見て「面白そう!これ見たい!」と公開を待っておりました。

すごおおく、すごおおおおくよかったのでぜひお近くの映画館でかかってたら見に行ってみていただきたい。ドキュメンタリーとして作るのではなく、ある種のフィクションとして、誰でも見られるエンターテイメント作品としてこういうものを制作するってこと自体にきっと意味があるんだろうなと思うし(タブーを取り扱っているため上映禁止になる国だってあるのだ)、エンタメにしかできないことをやりつつ映画を見る楽しさをちゃんと提供してくれてる作品だと思います。

男性が生理と真正面から向き合った作品というと、私の中で燦然と輝く傑作「法王庁の避妊法」という舞台を思い出すわけですが、取り組んでいる方は目的に邁進あるのみだからこそ周囲から奇異な目で見られてしまうってジレンマとか、自分ではわかりえないことをどうにかして探求しようとする姿勢ってすごく物語性があるんだなってこの映画を見ていて改めて思いました。舞台になっているのはインド郊外の村なんですけど、そこは宗教的な戒律、禁忌、そういったものをみんなが信じていて、それに従えば女性の生理は「穢れ」であり、同じ部屋で過ごすことすらかなわないものなのだ。5日間、屋外(ベランダ)の小屋のようなところで過ごすんだよ(冬でも寒くないからこそできる話だよなと思った)、食事も一緒に取れないんだよ。いや待てーい!てなるやん。好きこのんで女に生まれたわけちゃうわ!ってなるやん。でも、その村の女性たちはその慣習を信じていて、その話をすることは「しぬほどはずかしいこと」だと思っていて、使い古した不衛生な布切れで5日間をやりすごすのだ。

主人公のラクシュミは大学に通ったわけでもなく、「無学」な男だが、腕の良い職人で、妻を溺愛している。そして合理的な思考回路を持っている。生理現象を穢れとして扱い、その間愛する妻が不衛生な環境にあることが耐えられない。それが彼女の命を縮めることを何よりもおそれ、だからこそ生理用ナプキンを使って欲しいと考える。でも高すぎるのだ。高すぎるし、村の薬局では男には売ってくれない(密売品のごとく扱われる)。だから自分で作ろうと思う。この物語はそこから始まっている。

ラクシュミをとりまく偏見の強さには見ているこちらの心も折れそうになるが(もっと早く理解者が出てきてくれてもいいのに!と思っちゃう)、でもこの映画の大事な部分でもあるよなあとも思うのだ。妻とお祭りに出かけたラクシュミが、からくりのガネーシャ像に妻が51ルピー払う(そうすると来世に行けると信じている)と言うことに驚き、でも55ルピーのナプキンにはお金を払えないというのはなぜなのか、と考えるシーンがある。職人であるラクシュミにはからくりの仕掛けがわかっていて、あれなら自分でも作れると思う。でも妻にはその言葉は通じない。からくりの像に51ルピー払って手を合わせる妻はとても幸せで満ち足りている。信じているからだ。自分の身の回りにある慣習や戒律を信じ、それに従っていれば満ち足りていられるからだ。そしてそれは「愚かさ」というようなものとは全く別のことなのだ。多くの人が信じているものを変えるのは「正しさ」を振り回すだけじゃ絶対にできない。

ここでまた「法王庁の避妊法」の話に戻るけれど、その芝居の中で、月経のメカニズムも何も知らなかったころは、子どもは授かりものだった。女性は「選べない」ことに苦しんでいた。これからは「選べる」がゆえに苦しまなければならなくなる。でもそれは進化した悩みだ、確実に一歩進んだ偉大な悩みなのだ、と医師が語るシーンがあって、私はその台詞が本当に大好きなんです。この映画の女性たちも、ひとつの禁忌をなくすことで、また別の悩みを持つことになるかもしれないけれど、でもそれが個々の幸福につながるのならば、やっぱり前に進むしかないんじゃないかと思うのだ。

ラクシュミはついには村を追われ、仕事を失っても、持ち前の腕の良さと真摯な姿勢で困難に打ち克っていく。私は凡人ゆえに文字通り石持て追われた故郷が、国家からの褒章で手のひらを返すのがちょっと調子よすぎるのでは!?とか思ってしまうんだけど、ラクシュミはそんなことは気にしないのだなあ~。大きい男だよ。安価な機械を開発し、それを使うことで女性たちの雇用機会を拡大していくところ、やっぱぐっときちゃうし、あの国連でのスピーチは泣いちゃいますよね、そりゃ。男には1年は12か月、でも女には1年は10月しかない。その2か月を取り戻す。いや、泣くでしょ。

映画全体にすばらしいユーモアがあふれており、インド映画らしく歌と踊りが随所に盛り込まれているのもアクセントになっていてとてもよかったです。おすすめ!