「KNIFE」  惑星ピスタチオ

はっきり言ってこれ以前のピスタチオ作品はあの「破壊ランナー」でさえもただの序章にすぎない、と言えるでしょう。それほどこの作品はずば抜けてる。

ジョン・スピード・ナイフという男が脱出不可能といわれる刑務所へ送られてくるところから話は始まる。オープニングから群唱を多用していて実に私好み。ここから、ほんの偶然のきっかけで脱出に成功してしまうナイフと、刑務官サリー・クラウンとの逃亡劇を軸にさまざまな惑星・人種・境遇が現れては消え、また現れては消えてゆく。ここでミソなのが、どんなシーンも必ず「ここからどうなるんだ!」という、いわば山場で否応なく次の世界へ飛び込んでいってしまうこと。否応なく、というよりは、サリーに追いつめられて、と言った方が正しいか。つまり誰の運命も見届けずに去っていってしまうわけ。

それはその中でのいちいりえさんのセリフ「私の結末はあんたなんかに関係ないわ」に集約されているのだけど、その結末を見届けない、ということがなぜナイフが刑務所に送られたのか(この答えは観客には提示されていないのよ)という謎とオーバーラップしてゆく。観ている側はどれもこれも解決が見れないから当然消化不良も感じるし、同時に「なぜだろう」という興味も湧いてくる。これを終盤に一気に高めてゆく脚本がとにかく凄い!!!特にマイムだけで回想シーンをやるところが秀逸!まるで映画を見ている気分にさせてくれる。そしてラストはナイフがサリーに追いつめられて絶体絶命、そこで「ナイフ!!」の群唱とともにストップモーション、斜に当たった照明がだんだん消えて暗転。つまり、ナイフの結末はナイフだけのもの、ということなんだなあ。いや全く、こういうのもアリなのか、と目からウロコが落ちた思いでした。

役者も、演技派高橋俊博さんが主役ナイフを文字通り好演。それになんと言っても保村さんがクールなサリー・クラウンを演じて、カッコよかったっす〜〜〜!とうとう花開いたか保村!佐々木さんと腹筋さんのギャグも冴えてたし(怪獣のケーキの話が大好き!)、宇田さんやいちいさんもしっかり役にはまって、まさに傑作。ハリウッドより面白い演劇という謳い文句、伊達じゃないかもよ。

これは本当にねえ、もう大傑作だと思いますよ。誰かこれを映画にするべきだよ。マイムだけの回想シーン、宇田さんの「ブラックバーボン、かっときますぜ」を聞くだけで何回でも泣きそうになるもん。いちいさんの「あなた今まで自分が会った人、全部の名前を知ってるの?」とかも良かったしなあ。名ゼリフてんこ盛り。しかもこれドラマシティなんだねえ!しかもあたし殆ど最後列で見てるんだねえ!いやー遠かった記憶ないけどなあ。もうめちゃめちゃのめり込んで見ていたからだと思うけど。この脚本がこのまま埋もれるのはマジで勿体ないと思うぞ!!