「パンドラの鐘」

何から書いていいのやら、わからん。とにかく凄いとしか言いようがない。凄いものを見たとしかいいようがない。そんな感じだ。

この「鐘」の秘密を、ついうっかり雑誌のインタビューで知ってしまったので、予備知識は出来るだけ入れずに芝居を見ようと思っている私としてはしまったーー、もしかしてこのどんでん返しが芝居の核なんじゃ?という感じだったんですけど、そんな浅いものじゃありませんでしたね。とにかく、テーマとしては野田秀樹がここまで書くか!と思うほどにストレートに深い。核、原爆、天皇の戦争責任。蜷川さんはそれを真っ正面から受け止めて演出している感じでした。ストーリーの中では、大竹さん演じるヒメ女の統治する古代王国と、太平洋戦争開戦前夜、長崎で発掘作業を行うカナクギ教授のチームが交錯していくんですけど、まあ、あらすじの説明なんて野田秀樹の脚本の前にやっても無駄ですから。

最後通牒を前に大竹さんの言う「埋められるのが、滅びる前の日の王の最後の仕事よ。それが出来ないものは、滅びる前の日に女王などと呼ばせてはいけない」のセリフ、タマキの言う「ヒメ女がそうしたように・・・この国の王も身を沈めてくれるに違いない」の言葉、あまりにも痛烈で、本当に野田さんがこれを書いたのかと思わずにはいられなかった。ミズヲの名前が「水を」だとわかったときの戦慄、狂った兄の読んでいたものが最後通牒だとわかったときの驚き。「俺は、届くに賭ける」とミズヲが叫んだ後に聞こえる轟音。8月のとある一日、もうひとつの太陽が頭上で爆発したのはなぜなのか。下手をすればどうしようもなく説教臭いいやな芝居になっていたと思う。でもこれはそうなっていない。それは野田さんが天才だからなのか。蜷川さんがそれをギリギリまで表現しながらも寸前でストップをかけているからなのか。天才同士が組むとこんなものが出来上がるのですね。もう、とにかく本当にすごい。

ヒメ女をやった大竹さん。流石です。というか、この人も天才ですよね。その大竹さんと真っ向勝負で受けきった勝村さん。本当に申し訳ないけど、あなたがここまで凄いとは思ってませんでした。自分の不明を恥じます。素晴らしかった。野田さんらしい切なさを凝縮した一語「化けて出てこーい!」を聞いた瞬間、もう涙で舞台が見えなくなった。松重さんも沢さんも、大石さんも井手さんも生瀬さんも、素晴らしいアンサンブルを見せてくれて・・・・もう、誉め言葉も尽きる感じ(笑)。

これね・・・これ、ほんといろんな人に見てもらいたいなぁ。それで感想を聞きたい。ワケわかんない、と言われるのかもしれないけどさ。

野田版未見の時点で書いています。蜷川版を最初に見たのは、野田版を先に見ると絶対それを正解だろうと思いこむと思って(笑)、野田さんの演出がツボるのはもうわかっているので、あえて蜷川さんを先に見ました。正解だったと思う。でも、この出来を越えるのはかなりしんどいよなーー。というか、悪いけど堤さんに勝村さんのミズヲを越えられるとはどうしても思えん。天海さんもしかり。まあでも、見てからのお楽しみですわね。

結局蜷川版がこの年のベストとなったわけです。蜷川さんの演出の力もさることながら、今思い出すのは勝村さんのミズヲ、そして大竹さんのヒメ女の凄まじさ。第三舞台時代からずっと見てきた勝村さんですが、この舞台を観たとき「ああこの人は本当に凄い人だ」と心底驚かされました。