「夜叉ヶ池」

泉鏡花の原作は未読。不勉強ですいません。話の展開も知らなかったのでまず純粋にストーリーを楽しめた点ではよかった。最後「3つ以外の鐘を鳴らすのか」「3つの鐘を鳴らさないのか」でちょっとどきどきしたし。後半に向けての話の盛り上げ方はうまいなと思った。三池さんの映画も見たことがないので、作風も存じ上げないのですが、村人が雨乞いの生け贄に百合を連れていこうとするあたりから舞台の緊迫感が持続してて良かったと思う。

後半の怒濤の展開に較べて冒頭が非常に静かで、というか静かすぎるので、客席がぐっと舞台にのめり込める瞬間というのがなかなか来ない。話の展開からすると学円が「居なくなった友人の話」を始める場面は話のトーンを変えるポイントのひとつなんだと思うんだけど、そこがもうひとつうまくいっていない感じ。最初の静かなシーンを詩的な美しさや幻想的な風情一本で推していけるだけの力がちょっとないんだよなあ。出来ればオープニングもっとハッタリかましてくれると落差もついて集中しやすかったかな、と思う。松雪泰子さんや遠藤憲一さん、萩原聖人さんなど豪華なキャスト陣がなかなか出てこないのももったいないし、最初に世界観示しちゃうような感じで勢揃いを見せても面白かったかも。いかにも演劇的で手垢のついたやり方ではあるけれども。

最初のシーンを担当するのが田畑智子さんと武田真治くん、そして松田龍平くんの3人なんですが、えー・・・感想が難しいな(笑)。最初は松田くんの台詞回しがすごく気になったんだが、慣れるとこれはこれで味かな、と。とぼけた味わいでうまく笑いをさらっていくところはなかなかだなあと思えた。ただクール、というより茫洋、という印象の学円に終始してしまったのがちょっと哀しいかな。後半村人に立ち向かうシーンで、一言だけでもまったく違うトーンで攻めてみてくれると深みがもっと出たかも。武田くんは正直、ちょっと期待していたところもあっただけに残念な部分が多かった。うーん・・・舞台の上で空回ってる印象。台詞がとどいてこないんだよなあ〜。クライマックスの慟哭のシーンはすごくいいのに。細かな動きとかちょっとした仕草で百合との仲睦まじさを出しているのは良いな、と思った。

最初の回想シーンで村人が出てきてきたろうさんが台詞を吐くと、なんだか一気に「舞台」という感じがアリアリとしてくるのが如実で面白かった(笑)ある意味「俗」というのを体現してるっつーか。そういえば、村人と夜叉ヶ池、どっちも「俗」感があるよなあ。だとすると3人のシーンがある意味浮いて見えるのは目論見どおりなのかしらん。ともあれ、村人・妖怪(?)組は味も濃く演技も濃く、安心して見ていられた。一押しは遠藤憲一さんと萩原さんかな。萩原さんはどちらのサイドでも好演していたと思う。遠藤さんを舞台で拝見するのは初めてですけど、押し出しも良く声も良くガタイも良く、見ていて楽しい。しかし中でも巧者、という感じがあるのは圧倒的にきたろうさんだったな。硬軟自在。

松雪さんももちろん拝見したの初めてですが、ため息の出る美しさ。声が良いのは財産だなーと思う。丹波さんの台本読みは、あれはあれでもう一芸なんでしょう(笑)プロとしてどうかってことじゃなく、それが許される存在感が「芸」ってことなのかなと。だからって二度見たいとは思いませんが。

晃と百合たちを挟んで表(人間の世界)と裏(伝説の世界)が「しきたり」を巡って攻防する構造とかすごく面白かったので、原作を読んでみようかなと思いつつ・・・「難解だよ」とのお言葉にくじけそうな感じ。でもそれをわかりやすく提示してくれたのはよかったな。時間もちょうど2時間程度で、長すぎず短すぎず。