「消失」 NYLON100℃

どこだかわからない、いつかはわからない、おそらくは遠い未来のある一軒家で暮らしている二人の兄弟。そこを訪れる二人の女と二人の男。会話の端々に予感を含ませながら2時間45分、汚れた世界に愛情のソースをかけて召し上がれ。

直接的な説明なしにそれぞれの会話から街、もしくは世界が崩壊しつつあることを匂わせたり、一軒家に住むふたりのところに訪ねてくる人たちという筋立ては「4.A.M」を彷彿とさせますが、しかし箱は一緒でも中身は違うなあという感じです。お得意の会話の微妙なすれ違いで笑いを生んでいくケラさん独特の会話術は極力抑えめ、笑いのための笑いは今回眼目じゃないんだってことでしょうか。しかしそういったお遊びがなくても集中力がまったくとぎれない劇作はすごい。何がどうってわけじゃないんだけどなあ。登場人物の感情の波に乗っていけてるからそう思うのかしらん。ケラさんの舞台で誰かの思いに共感するって、実はあまりないことだったりするんだけど、今回はキャラクターそれぞれにこっちの感情に引っかかってくるところがあったと思う。前半はチャズの弟への思いに、後半はキャラクターそれぞれの「失いたくないもの」(でも失ってしまうもの)への想いに振り回される。

加えて、ラストシーンの演出がもう鳥肌たつほど見事で、うーんこれはなんというか現実世界に戻るのがちょっと時間かかります!というぐらいの余韻であった。今まで確かにそこにいたのに、今はもういない。「消失」のあとの、消えていった人たちの影だけが浮かび上がり、そして消える。

防空壕の話をするスタンに頷くチャズ、スタンに「色んな話をしましょう」というスワンレイク、「うかれてた・・・!」と慟哭するジャック、そのジャックを赦すネハムキン。ラストの濃密さがほんとにすごかったなあ。特にスワンレイクの「今度こそは失うまい」と思う必死さと優しさに泣けた。

まさに少数精鋭な役者陣もまったくお見事!今回得意技を封じてまっすぐ役に向かっていってる大倉くんにまず唸らされました。ちゃんと面白くできる役者はちゃんと真面目にも出来るということなんでしょう。それにしても独特の存在感、滲み出す感情、この長丁場を最後まで引っ張っていく力にマジで感嘆。惚れ直しました。みのすけ&三宅、松永&犬山の巧者4人も見事な仕事師っぷり。もーこの人達なら間違いないという感じで安心して見れる。みのすけさんの、オヤジなのに少年という複雑怪奇なキャラなのにすごい説得力。犬山さんはいつもパッと見ちょっと鬱陶しいキャラなのに、それに愛着を持たせる役作りがうまいなあと。客演の八嶋さんはキャラに意外性こそなくてそのあたりがちょっと残念といえば残念な気もするけれど、しかしクリアな台詞回しと漂う異物感、キャラとうまくマッチして後半見事に緊迫感を作りだしてくれていたなあと。

2時間45分、普通なら休憩を入れたくなるところだけど、あえてノンストップでやったことも英断だと思います。個人的にはそりゃあ短い芝居の方が好きだけど、作品さえ良ければこれぐらいはノンストップでも全然構わない。むしろ休憩をいれることで一旦客席をクールダウンさせるのとではラストへの緊迫感はやはり多少違ってくるだろうなとも思うし。見終わったあと、「え、もう?」というぐらいの濃密さでした。堪能。