「わが闇」ナイロン100℃

ばれ感想に入る前にまずこれだけは。素晴らしかったです。休憩10分挟んで3時間20分、1幕だけで1時間50分という長尺ですが、それにひるんでいる方には心配ご無用!と言いたい。ナイロンという劇団、その役者陣、スタッフ、そういったものが見事に結実している作品だと思います。当日券あり、との表示がありましたので、お時間のある方は是非にも。年明けに地方公演も予定されています。

以下ばれ含む感想。
わが闇、というタイトルから相当にダークサイドにころがっていく話ではないかと予想していたのですが、それはある意味裏切られたなという感じ。非常に真っ当、直球勝負での作品でした。ファンタジーに逃げるところが微塵もないのね。今までのケラさんの作品はどこかそういう「その世界にだけ起こりうること」みたいな設定があって、ただその中で描くドラマは現実の私たちと何も変わらない、というような作品が多いと思うんだけど、今回の新作はそういった記号的な枠組みが一切無い。だれにでも起こりうるドラマ、とケラさんも仰っていますが、それを書ききっている、しかも演劇としてちゃんと成立させている。

昔からナイロンの映像の使い方はいい、と評価はありましたが、いやもうこの作品を見てしまったら、演劇の中での映像、という点ではケラさん&ナイロンは一歩も二歩もどころか、100馬身ぐらいリードしている、つか誰もついていけてない、それぐらいの衝撃があります。映像がなければこの作品は成立しないわけですが、しかしその映像は演劇だからこそ活きる映像なんですよね。いやーもうこれは見て!としか言えない。見ないと、あの家が押しつぶされていくような感じ、あの圧迫感は味わえない。でもって皮肉な話というか、これはメディア化されたものを見てもあの映像使いの凄さってのは逆にまったく伝わらないんじゃないかと思う。

そうそう、二幕では家の床が下手が高くなる形で傾斜がつけられていて、そのアンバランスさにちょっと酔ったような感じになりました。あれ、なにげなくやってるけど多分役者さんたち相当大変なはず。

三姉妹それぞれが「わが闇」を抱えていて、登場人物のそれぞれにも闇はあって、その三姉妹の闇に、ほんのすこしだけ光を見せるような展開をケラさんが書くとは思わなかった!という驚きも相俟ってあの艶子の「おねえちゃんは大丈夫だと思ってた」という台詞や、写真の裏に書かれたメッセージに、思わず落涙したっつー。

いやほんと、丁寧に丁寧に積み重ねていたなあと思う。だから長さが気にならなかったし、集中して見ることが出来た。3時間20分というのは必要な長さだったと思います。

みのすけさんと松永玲子さんがきわめて「ひどい」役をやっているのだが、これがまあ見事すぎて、特にみのすけさんのあの役はもう・・・いやうまいっすねこの人。松永さん演じる飛石が泣いている立子に「まあまあ泣いてるとこ悪いけど」と言いながらティッシュを3,4枚つかんで渡すシーンとか、くらくらした、腹が立ちすぎて(笑)いや、それだけ見事だということです。でも飛石のほうはそんな嫌い!ってほどでもない。もっとも瞬間風速的に腹が立ったのは大倉孝二演じる大鍋が滝本に八つ当たりするシーンだったね。あれでやつが謝らなかったら血管の2,3本はキレてました(笑)

犬山イヌコさんが終始乱れることのない、しっかりものの長女を演じていて、この作品を支えていたと思います。立子が出てくると締まる感じがあったなあ。リエさんの艶子も、犬山さんとは違う側面でこの舞台を支えていた。いや癒されたよ今回のリエさんにはさー!だから余計寅夫が腹立たしいという(笑)三宅さんも、今回はちょっと今までにない役柄だったんではないでしょうか。最後のシーン、笑い泣いたよ俺は。客演陣もほんとうに達者で、長谷川朝晴さんはほんの少しの間でもちゃんと笑いを生むテンポにもっていく達人だったし、岡田義徳さんの滝本も熱血ながらどこか甘えた部分を匂わせるキャラをうまく出していたと思う。三女の坂井真紀さんの可愛さと、裏返しのやさぐれ具合もいい味だしてました。

3年ぶりのナイロン新作、これだけのものを見せられちゃぐうの音もでないよ。参りました!