「文學界」に松尾スズキの中編小説

クワイエットルームにようこそ」。一体いつ書く暇があったんだろうか。すごいな。
たとえば松尾さんは役者であり演出家であり脚本家でありエッセイストであり小説家であり映画監督ですらあるわけだけど、そしてそのいずれもでそれなりの、もしくは最高級の評価を得ているというのはまったくすごい。
でも私が一番好きな「松尾スズキ」は脚本家かもしれないです。
たとえば野田秀樹さんも役者であり脚本家であり演出家なんだけど、野田さんの場合は「役者」と「演出家」が飛び抜けて好きだといえる。いや、でも一番は「演出家」かな。野田さんの戯曲の「立ち上げ力」ってちょっと類を見ない。
松尾さんの戯曲(というか、脚本)のすごさを実感したのはでも実は芝居の脚本じゃないんです。

永遠の10分遅刻

永遠の10分遅刻

この「寄せて集めた」*1エッセイ集の巻末に、2001年にNHKFMで放送されたラジオドラマ「祈りきれない夜の歌」の脚本が収録されています。
泣いたんだよねえ。
ラジオドラマというメディアの特性をすごく活かした脚本ではあるんですけど、脚本だけをそのまま読んでもこれはすごい作品だと思います。その年のオーディオドラマ大賞を受賞するのも納得、納得です。
それで例えばじゃあそれが「小説」というメディアになったらどうなのか、というのはやっぱり小説と脚本は違うなあと思ってしまうわけなのだけど、「人間性が完全に剥奪された場所にむしろ人間本来の姿が現れる」という松尾さんの哲学(というとくすぐったいけど)はこの「クワイエットルームにようこそ」でも存分に味わうことが出来て、松尾ワールドだなあとふむふむと頷いてしまいました。

*1:「ちまちまあっちに書いたりこっちに書いたりしたものを、寄せて寄せて集めて集めてどうにかこうにか一冊にしたものです」永遠の10分遅刻「まえがき」より