「スーパー歌舞伎 ワンピース」

あの!「ONE PIECE」を歌舞伎で!という第一報を聞いた時は「マジカヨー!」ってなりましたけど、猿之助さんがやる以上、そんなしょうもないものにはなるまい、笑えるにしろ、かっこいいにしろ、いききった作品にはしてくれるだろうなーという漠然とした期待感だけはあったんですが、いやーさすがだ、さすがだよね四代目。新橋での大評判をひっさげての松竹座公演、待ちかねたよー!

よく漫画から飛び出してくる、なんて表現を比喩として使ったりすることがありますが、この舞台に関しては文字通り、物理で「飛び出してくる」。美術に堀尾幸男、照明に原田保、そして映像に上田大樹という、文字通り各界のトップランナーを揃えているうえに、こういった二次元→三次元変換ならこの人に任せろ!と言わんばかりの衣装・竹田団吾という水も漏らさぬ布陣でこの「舞台にワンピースの世界を出現させる」ことに取り組んでいるんだから、そのスタッフワークの凄さはほんと一見の価値ありですよ。個人的に、映像に上田大樹を持ってきたのは慧眼と言わざるを得ない。あの劇場全体に仕掛けられたプロジェクションマッピングの効果たるや!

原作もちろん大大大すっきなので、あのー最初の影絵?みたいなとこでもうから「あっやべ!」って涙ぐみそうになったとかマジ内緒の方向なんですけど、物語自体は「麦わらの一味」の活躍を追うというよりは、マリンフォード頂上戦争へ至る道筋とそこでのドラマを描くという感じ。

とにかく、これぞまさに趣向の華、とでも言いたくなるほど、持てる手練手管を惜しみもせずに出しまくっていて、一幕での猿之助さんの早替え連打もそうですが、やはり二幕の畳み掛けがすごい!このインペルダウンの場だけを独立して見せても相当観客は満足するのではないでしょうか。もともと、原作自体もすごくケレン味のある見せ方をするところがあるので、その相性の良さをいかんなく発揮している感じです。そしてその二幕をこれでもか!と盛り上げる巳之助さん、隼人さん(水も滴る…を地でいってる!)、そして浅野イワンコフ!(おじいちゃん!すごい!)巳之助さんのボン・クレー、いやもう観る前からものすごい評判は漏れ聞こえてきていて、つまり相当ハードルがあがった状態で観たにもかかわらず、マジで漫画の世界から飛び出てきたかのような再現度、憑依度、身体と芸の力を惜しみなく見せきった芝居ぶり、登場シーンで拍手がくるのもわかる、わかるよ。あの本水というよりもはや本滝といわんばかりのやらずぶったくりぶりも爽快ですが、そのあとの花道でうっと涙でつまる芝居のあとからの本意気ぶりがすごい!あの、ぐ、ぐ、ぐ、と音がしそうなほどに大きく大きくなる芝居、相手を挑発するときのかっこよさ、そしてボン・クレー飛び六方!思わず涙が出た。なんなんでしょうね、胸熱ってこういうこというんですかねっていう。

一幕、二幕が趣向の華なら三幕はがっつりドラマをお見せしますよという構成で、ここで出てくる白ヒゲ、エドワード・ニューゲートを演じる市川右近さんがまったいい重さを置いていってくれるんだ。そういえば今回ダブル右近さんなんだよね、尾上右近さんもよかったなあ。巳之助さんは三幕のスクワードもすごく重要な役で、まさに八面六臂の大活躍だよね…!今回は若手を前面に出したい、彼らの活躍を見せたいと猿之助さんが仰ってたけど、それがまんまと成功してるし、そこを有言実行できちゃうのが猿之助さんのすごくてえらいところだよ!

物語のキーになる火拳のエースは、大阪では平岳大さんが演じてらっしゃって、いやもう今「真田丸」にどんずばってる私はどうしても「勝頼さま…!」目線で観てしまうんだけど、平さん!またしても!父の影に苦悩する息子!かつヒロイン力フルパワー!うん、わたし、おれを助けてくれたかつての自分のヒーローを、今度はおれが!っていう、少年ジャンプ(文字通り)展開も大好きだからね、平さんの薄幸オーラもあいまってね、原作を読んだ時の胸の震えが思い出されてなんかもう後半ぜーぜー息してた(わたしが)。

チケット取る時に、1階の若干前方よりで観るのと迷ったけど、一瞬の逡巡の後に(だって売り切れちゃうからあ)2階最前列を選択したんです。でも結果的に正解だった!だったと思う!プロジェクションマッピングの効果を存分に体感できるし、あの二幕のさ、ルフィの宙乗りのところで大きなクジラが浮かぶじゃないですか。2階の最前列って、あのクジラを抱っこできるんじゃないかってぐらい近くにくるんです。ほんとあの瞬間の3D度ったらない。あの松竹座のハコ全体が海になってたし、あの宙乗りはその海の中を駆けていくルフィにしか見えないし、自分がその一部になったように感じられるし、ほんと、文字通り高揚した。花道の芝居もばっちり見えるし、新橋に較べて小さいので距離も近いし、ほんと…堪能させてもらえたなー!という気分でいっぱいです。

原作への敬意、歌舞伎というものへの敬意、面白いものを作るぞ!という座組の心意気、そういったものを感じる、いや感じるどころじゃない、ざんざんに浴びまくった観劇でした。楽しかったです。ほんともう、それに尽きる!