ここから始めなきゃいけない

twitterのアンケート機能を使って、観劇中の携帯電話についてアンケートをとってみました。設定時間は48時間。回答数は約20000。皆様の御協力のおかげで、サンプリング調査としてはじゅうぶんな回答数になったんじゃないかと思います。RTされた先を見ても、小劇場、伝統芸能、宝塚、ジャニーズ、2.5、四季などなど、ジャンルとしてもかなりまんべんなく広まったように思われます。御協力下さった方に改めて御礼申し上げます。


観劇中に携帯電話の電源を切る。私にとっては至極当たり前のことです。上演中に着信音を鳴らされたり、バイブ音を鳴らされたり、バックライトの光に悩まされたりするたびに怒りを露わにしてきましたし、今でも「なぜ切らない」と思います。しかし、実際、どれぐらいの人間が電源を切っている、または切っていないのだろうか?もちろん、私の周囲では皆、電源は切ると言いますし、そういう人しか普段は目にすることがありません。それはそうでしょう、私自身が「切らない」ことに怒りを感じている以上、見える範囲にはそうではない人しかいなくて当然です。

実際の結果をご覧になって、どう思われたでしょうか?アンケートという形を取る以上、フラットな設問にしたいと思いましたし、また「切るの当たり前だよね」という聞き方では偏った結果になるのではとも思いました。機内モード、マナーモードという選択肢にしたのは、私が実際に劇場で目に、耳にしたケースからです。

結果、約半分の方が電源を切っていない、ということになりました。約1%の「気にしてない」は、パーセンテージこそ低いですが、2万人の1%ですので実数としては約200です(途中経過から換算するに、少なくとも300前後は実数があると思われます)。そんなにもか、と思うと同時に、おそらくこれが実態に限りなく近いんだろうなと納得する部分もあります。そりゃ、鳴るよ、鳴ります。客席の半分が電源を切っていない、あなたが切っているならあなたの隣は切っていないのだから、もはや、鳴らないことが奇跡です。

今まで、見る方も、作る方も、漠然と「たいていの人は切っている」と思っていたかもしれませんが、そうじゃない。つまるところ、この現状を認識して、ここから始めなければ、この割合はどんどん逆転していくのではないだろうかとすら思えます。観劇中に電源を切れない理由がわからない、という方もいます。私もそう思います。着信があったところで、メッセージが届いたところで、それに観劇中に応じるわけではないのだから、切っていてなんの不都合があるのか。しかし、現状はこうなのです。

どうやったら、この半数の人に、電源を切ってもらえるのか。開演前のアナウンスや諸注意が不十分だとは私は思いません。もはや、あれ以上繰り返したところで、あまり効果はないでしょう。マナーモードや機内モードにしている方は、少なくとも「音が鳴ることに対して気をつけよう」という意思はある。それをもう一歩踏み込んで、アラームや、予期せぬアプリの通知や、バックライトの光を完全に気にしないでいるために、電源を切る、というところまできてもらうにはどうしたらいいんでしょうか?

わざわざ高いチケット代を払い、交通費をかけて、劇場に出かけていく。ありとあらゆるものがデータとなり手元の機器にダウンロードできるようになった今の時代に、観劇という行為はあまりにもアナログです。そこで体験することは、逆に言えば、自分の部屋のPCの前にいるだけでは手に入らない体験だともいえます。その対価に見合った体験をするために、その世界に没頭するために、そしてその世界に没頭している他の観客の邪魔をしないために、電源を切るというたったひとつの行為で、着信するかもしれない電話やメール、鳴るかもしれないアラームのことを忘れ去ることができる。それほどむずかしいことでしょうか?演じ手のために、その日を楽しみにチケットを握りしめてきた観客のために、そして、あなたのために。

現状を思うとなかなかに気が遠くなる気もしますが、しかし携帯電話がここまで普及してから15年ほど(普及率が50%を超えたのが2000年頃)ですから、まだまだ若い悩みといってもいいのかもしれません。この先、もっと革命的な解決方法が出てくる、かもしれない。とりあえずそれまでは、草の根的なことでも、やらないよりはまし、というところでしょうか。

もうひとつ、わたしがお願いしたいことがあるとすれば、それはいわゆる「関係者」と言われる方たちのマナーです。制作の方はまず手始めに、関係者として客席に座る方のすべての携帯電話の電源を必ず切るように徹底してみてはいかがでしょうか。上演中に携帯電話を鳴らした人物が、終演後楽屋口に案内されるのを見かけたりしたら(観客は実際のところ、そういうところをとてもよく見ています)、観客に対して電源OFFをお願いしてももはや何の説得力もない。舞台の上も下も、できるところからはじめていきたいものです。