「リチャード三世」

オールメールのリチャード三世。なんだかんだ翻案も含めてリチャード三世も結構見ているなあ。タイトルロールであるリチャード三世が佐々木蔵之介さんだったんですが、今回のセットの雰囲気が、昨年彼が演じたひとり芝居マクベスのものと通底したようなところがあって、なんとなく地続きの感覚で舞台を見たような感覚があります。閉鎖空間でリハビリとして演じられる「リチャード三世」としても見られそうな雰囲気ありましたよね。

「びっこでせむし」のリチャードをそのまんま見せず、長身のすらっと美しい姿のまま演じるという手法もわりと目にしますが、今作では途中でコブをつけたり膝立ちで歩いてみせたりといった場面とそうでない場面が交錯していて(最初は何の制限もなく、だんだんと「醜い」姿に変貌させていくのかなと思いましたが、そうでもなかった)その辺の意図がもうちょっと掴めたらなー!と思うところもありました。個人的に好きだったのは見立てがうまく使われていたところで、最初のパーティの場面(全員ほとんど同じ装い)から物語がスタートし、ビニール袋とガムテープで牢に入れられた人物であることを示すのもよかったし、清掃夫が場面場面で違う役割を持つものに見えたりといった趣向も効果的だったなーと思います。

オールメールなので、アンもマーガレットもエリザベスも男性が演じているんですが、この役をやった手塚さん今井さん植本さんのお三方がとにかく素晴らしい。所作や台詞まわしの巧みさではやはり植本さんが抜きんでたところがありますが、手塚さんのアンはそのスタイルのよさを存分に活かしつつ、どこか禍々しい雰囲気もあってリチャードとの相性抜群でしたし、今井さんのマーガレットはあの朗々とした台詞回し(そして美声)で告げられる呪詛の言葉の効果がすごいし、個人的に呪い方を語る場面、失ったものをよりよかったと思い込むことだ…と畳みかけるあの場面が最高でした。この舞台の白眉の一つと言っていいほど印象的な場面になっていたと思います。

山中崇さんのバッキンガムの描き方も印象的でしたね。あの王位を受け取るように説得する(と見せかける)場面の演出もいかにも露悪的で好きでした。わりと好きなほうの演出ではあって、楽しんでみることができたんですが、あの有名な「絶望して死ね」の場面、木下順二訳では「この世に想いを絶って死ね」のリフレインを歌に乗せる演出はどうもうまく乗れなかったというか、ここまで積み上げた感情とノッキングしてしまって若干思考停止みたいになってしまったのが惜しかった。自分がいかに「音楽」というものへの回路が開いてないのか実感した次第であります。