「23階の笑い」

三谷幸喜さんが再びニール・サイモン戯曲の演出に。上演時間をなんと1時間45分でまとめて、グッとギュッと濃縮した時間で見られるのが最高。短くて面白い芝居最高。いや冗談抜きで三谷さんのこの柔軟性というか、時節に合わせる、という姿勢はもっと多くの人が見習ってもいいのでは。

米国三大ネットワークのひとつ、NBCで看板コント番組を持つマックスとその放送作家集団を描いた物語。予算!リストラ!時代の波!政治的圧力!そういったいつの時代も起こることに振り回されながらも、職業として「面白いこと、笑えること」にこだわり続ける人間たちが登場人物で、ニール・サイモンの自伝的作品とも言われているらしい。三谷さんもかつて放送作家、ドラマ脚本家としてさまざまな軋轢を経験している人だし、あの作家部屋の雰囲気も含めすごくストレートに演出しているなという印象でした。ああやってどんなことも洒落のめしていく作家たちに、すごく愛情があるというか。

最初は、これは「藪の中」じゃないけどマックス自身は出てこなくて、作家たちがマックスを語っていくタイプの戯曲か…?と思っていたら、あっさり登場したのでちょっとびっくり。最初に不在のマックスのことをすごく大きく語るので、登場したら矮小化しちゃうやつではと思ったけど、小手伸也さん獅子奮迅の快演で観客があっという間にマックスという人物に馴染んじゃったのはさすが。

舞台となっている時代はアメリカに赤狩りマッカーシズムが吹き荒れた時代でもあって、その「何かがどんどんダメになっていくような空気」っていうのは、今客席のこちら側にいる私たちも如実に感じるところがあるわけで、その中で「面白いものを作ろう」と奮闘する姿に、時代は違えど一種のシンパシーをもって見てしまうところがありました。

放送作家たちがまた個性的な人物ばかりで、それを端から端まで豪華なキャストが演じるのが楽しかったなー。みんなうまいからもう、安心感しかない。浅野さん、常にビシッと決めた細身スーツのお衣装で、最後にはタキシードまで着て下さるもんだから、いや最高か…?もうずっと浅野さんだけを眺めていたい…と思うほどでしたよ。吉原光夫さんの尋常じゃない声の良さ(と声量)、白スーツのくだりは三谷幸喜のコメディ感満載でよかった。小手さんの存在感はいわずもがな。

初日に拝見したんですけど、ラストのモノローグで瀬戸康史くんがむちゃくちゃ感極まって涙ぐんでしまっていて、それが役のキャラクターにも不思議とマッチしていて、いやーなんかいい瞬間だったな。物語で描かれた放送作家たちのように、この座組にも今日この日に辿り着くまでの有形無形のプレッシャーがあったと思うし、そういう現実と物語が一瞬シンクロしたような時間だったなと思います。

世田谷パブリックシアター感染症対策で客席との間に仕切りをつけているんだけど、前方の視界には影響なく、左右の視界が制限されることで集中力が削がれず、実際の効果はわからないけれど安心感あるなあ…と思いました。そういえばカーテンコールのときに初日だから?ブラボーだか何だか叫んだ客がいたけど、まじやめろし。本当、客席での発声(開演前のおしゃべりもふくめ)気をつけたいし、もっと注意喚起してもいいぐらいだぞーと思いました。