「ベルファスト」

f:id:peat:20220403163656j:plain
ケネス・ブラナー脚本・監督。昨年暮れあたりから文字通り「アカデミー賞の呼び声高い」みたいな話が出てたりして気になってたんですが、モノクロの予告編見た段階でなんか…ハードル高そう!(偏見)と構えてしまうの巻。しかし、脚本賞獲ったことと(個人的に脚本賞・脚色賞の映画は好みに合うことが多い)、そして何より約90分の上映時間というのに背中を押されました。90分!すばらしいね!

いやしかし、背中を押されてよかったね。なんつーか、しみじみとかみしめるよさのある映画でした。爆発的なスタオベみたいな心情というより、ひたひたと余韻に浸りたくなるタイプの映画というか。ケネス・ブラナーの自伝的作品で、彼が少年時代を過ごしたベルファストの街が、北アイルランド問題に揺れた時代を描いています。

その通りに住む誰もが知り合いで、子どもの頃の自分を知っていて、誰の家族が何をしているかわかっていて…そんな、かつては世界中にあり、そしてだんだんと失われつつある密な人間関係の中に突然やってくる覆面と火炎瓶、宗教、派閥、思想の嵐。その中で、少年バディが見た「世界」は時に厳しくて、怖くて、おそろしいものなんだけど…でもそれでも、美しいものがあるんだよってことがしっかり掬い取られているんですよね。生きることの喜びと哀しみが、生と死が、興奮と悲嘆が、織りなす綾のように現れては消える。それがどの場面もさりげなく美しい。だからこそ胸に迫る。

あの子と結婚できるかな?と聞くバディに父親の返す言葉があまりにもよくて、本当、世界がそうであったら、みんながそうであったら、と今の世界情勢を振り返ってしまう部分もありました。何もかも知っている、自分の生活の場を生きるために手放すということのしんどさも含めて。

ユーモアのある場面がたくさんあったのもよかったなー。グランパとグランマの会話、ぜんぶよい。ジュディ・デンチキアラン・ハインズさいこう。バディ少年がよんでいるアメコミがソーで、ケネス・ブラナー監督にくいやつー!!と思いましたね。

ジェイミー・ドーナンの歌うEVERLASTING LOVE、最高だったですね。カトリーナ・バルフさんの美しさも相俟って夢のようなシーンだったなー。キャストを、基本的にアイルランド出身者で固めているのも、ケネス・ブラナー監督の「あの頃」への再現の想いの強さがうかがえるような気がします。

とってつけたようなドラマティカルな出来事がなくても、人生は、映画は、じゅうぶんにドラマティックだ、ということを改めて教えてくれた作品でした。