「人魂を届けに」イキウメ

イキウメ新作。「人魂を届けに」というタイトルは比喩ではなく実際に人魂を届けに行く話。死刑執行に立ち会った刑務官は、執行の瞬間にその死刑囚から何かが「こぼれた」のを目撃する。木箱に入れて保管された「それ」から声が響くことがわかり、問題が拡大することをおそれた上司はそれを「捨ててこい」と刑務官に告げる。零れ出たそれが死刑囚の魂であるとするならば、それは魂だけの恩赦になるのかもしれない。刑務官はその人魂を抱え、死刑囚の「母親」のもとを訪ねる。

「人魂」、ひいてはその持ち主をめぐる物語の展開というよりは、その出自に辿り着くことで刑務官が向き合うものを見せていく物語という印象。山鳥たちのいるところは、傷ついたものがその翼を休める場所、という見方もできる一方で、一種のアナーキズムを生む場所というようにもとれるエピソードがあり、作品の中ではそれに対するジャッジはなされない。でも公安の彼が山鳥にあんたは本当の母親じゃない、男が母親になれるわけないじゃないか、と言い放った時の山鳥の顔、そしてパートナーを喪った時のエピソードなどは、実際の事件を彷彿とさせるものもあり、「そうかもしれない(山鳥の国政への復讐なのかもしれない)」と思わせる部分もあって、前川さんとしてはちょっと踏み込んだ作品だなと感じました。

八雲を追いかけた公安が先に辿り着いているっていう部分の解釈が自分の中で最後まで腑に落ちるものがなく、この喉に小骨のひっかかった感じ~!気になる~!と思いながら観ておりましたが、他方八雲とその息子のエピソードが山鳥の「息子」のひとりとかぶるような見せ方はするっと飲み込めるので、自分が芝居を観る時に「見立て」には強く「不整合」に弱い、というのが如実に出てて自分で面白かったです。

この芝居の「母親」役、この人ありというかこれ以上のキャスティングちょっと考えられないよねって感じでしたね。篠井さん圧巻でした。前述した公安の発言を受けた後の顔、まさに絶妙すぎた。復讐に燃える顔にも、絶望の顔にも、諦観の顔にも、憐憫の顔にも見える。役者の仕事だわあ。盛さんの役は今回の登場人物においては異物だったけど、露悪的になってないのがよかったですね。安井さんと浜田さんのコンビはいつもながらの安心感。毎年毎年しっかり劇団公演があって、こうしたオリジナルな作品で公演を打ち続けるって本当口で言うほど簡単なことじゃないとおもう。しかも絶対関西公演やってくれる。頭が上がらないよマジで。ひさびさのABCホールという小さなハコでイキウメを体感できてうれしかったです。