「馬留徳三郎の一日」

  • ピッコロシアター大ホール H列30番
  • 作 髙山さなえ 演出 平田オリザ

青年団プロデュース公演。脚本を書かれた髙山さなえさんは青年団演出部の出身だそう。山深い田舎の集落で過ごす老夫婦。近所の老人が気安く訪れている。そこにかかってくる一本の電話。どうやら電話の相手は老夫婦の息子らしいが、受け答えからどうやらオレオレ詐欺のように見受けられるが…。

オレオレ詐欺」という事案の特有さ(息子は「いる」けど「いない」、不在の相手)をうまく活かした脚本で、いい意味で想像していたのと違ったテイストの作品でした。非常に面白かったです。冒頭で何度も高校野球の準決勝の話が出るところから、この老夫婦が認知症を患っているということは示唆されており、そこに訪ねてくる人物がどれもこれも「誰が本当のことを言っているのかわからない」というのが物語にずっと緊張感を与えていたと思います。

オレオレ詐欺を仕掛けた本人が絶妙にこの「忘却の村」とでもいうべき場に取り込まれていくのがすごかったし、ところどころしっかり笑いもあってヘヴィーになりすぎない、けれどしっかり重さは伝わる作風なのも個人的に好みでした。ことに、老夫婦の息子はすでに若くして亡くなっている、という情報がもたらされてからの(それが本当か嘘かというせめぎあいも含め)展開は、笑える場面の裏にひそかにあった悲哀が一気に立ち上がってくるようで見事すぎました。途中で妻がふと口にする「忘れた真似。とぼけた振り。騙され続ける芝居。全部演じ分けられたら、ボケ老人の出来上がり。」という台詞など、思わずメモしたくなるパンチライン。見てよかったです。