「デモクラシー」

  • シアタードラマシティ 12列8番
  • 作 マイケル・フレイン  演出 ポール・ミラー

鹿賀丈史さんと市村正親さん、念願叶っての共演ということで話題の舞台。1970年代の東西冷戦まっただ中のドイツで実際に起きたスパイ事件をもとにした戯曲。共演者にくせ者俳優を揃えてかな〜り濃い面子。

ある一人のカリスマ政治家と、彼に憧れ、妬み、恋をし、憎んだ男たちの話、なんだなーと見ながら思った。どうにかして彼と関わりたくて関わりたくてみんな必死。それがネガと出るかポジと出るかの違いでしかなくって。だけどそのヴィリー・ブラントにとって、本当に心を許せた男が、誰よりも自分を崇拝しながら、誰よりも自分を裏切り続けた男だったってこと、その裏切りを知りながらも、ギュンター・ギョームを自分のそばに置き続けた。その心の裡は一体どんなものだったのだろう。

ほとんど素舞台で、会話劇、しかも場面があちこちに飛ぶのでかなり集中力が必要な舞台ではあります。自分も一、二度集中力が切れかけるところがありました。うーんでも、もっと面白くできると思うんだけどなー。演出が平板すぎやしないかな?と疑問符。鹿賀さんのブラントの芝居とか、ちょっと平板に見えるかなあと思ったり。ギョームがスパイかも、と知ったブラントがノルウェーの別荘で二人で語るシーンは静かな場面ながらもその心理戦が見事で素晴らしかった。ああいう駆け引きめいた緊迫感が全編に渡ってもう少しあったらかなり芝居のテンションも違うと思うんだけど。

しかし何しろ「実際にあった出来事」という背景が私の場合はずいぶんこの芝居を見る上で大きかった気がします。ワルシャワのゲットー犠牲者追悼碑の前でブラントが跪くシーン、「なかったことにされていた我々東ドイツを地図に書き入れた男」という台詞、ベルリンの壁崩壊後、かの地を訪れたブラントを見送るアルノとギョームの顔。あのラストは美しかったなあ。二つに分断された祖国を持った哀しさ、そこにはやっぱりノンフィクションの重みがありました。

鹿賀さん、芝居自体は抑揚が一定過ぎるかなーと思いましたけど、何よりブラントとしての存在感がすごい。市村さんさすがに軽妙洒脱ですなあ。藤木孝さんブラボー!という感じ。いやもう素晴らしい胡散臭さ、独特の間。堪能です。近藤芳正さんはどこ行ってもうまいなあ!今井朋彦さん、相変わらず口角の筋肉どうなってんですか、という滑舌の良さがすてき。ラストの台詞の優しさに思わずうっとり。

軽妙洒脱なコメディとしては機能していなかった部分もあって、若手の演出家(長塚さんとかさ・・・)でやってみたらどーなんだろうなーとか思ったりしました。

そうそう、芝居とはまったく関係ないのだが、パンフレットの稽古場写真、みなさまスーツ仕様で写ってらっしゃるんだけど、そのなかでも藤木さんの格好良さにめろめろになってしまった。うわーーーごめん超好み。やせ形三つ揃い眼鏡。なのに溢れ出るこの色気。まさにナイスミドル!その他にもビシッ!と三つ揃え近藤芳正さん(でも靴スニーカー)の、異様におしゃれなワイングラスの持ち方とか、タートルネックで私を落としにかかっている今井さんとか、なんかそんじょそこらの写真集よりおじさまスーツ好きの私にはおいしいパンフでした。