「阿修羅城の瞳」 新感線

まず全体の感想。観て損はない一級品の舞台であることはもう間違いなしです。お客を飽きさせないほっておかない、見せ場はがっつりきっちりと。歌舞伎役者の華とヅカトップの華のぶつかり合いはなんとしても見ておくべきだしそれを支える役者陣も勿論実力派揃い。いやーいい舞台っすよ!ただ個人的には3年前の影がそこかしこにちらちらしたこともあって、もう一回観ないと何とも、なシーンもあったりして。というわけでとりあえず現時点でのざっと感想。

脚本の改編はあるものの、話の根っこは勿論同じ。しかし今更気づくのもアレだが、中島さんの書いた中でもとびきり哀しい話だよねえ。私は2000年版阿修羅はとにかく一幕が好きで好きでしょうがなかったんですが(一幕のしめ方だけだったら生涯のベスト10に間違いなく入る好きさだ)、今回は二幕が素晴らしい出来だと思った。出門の生き残った哀しさ、阿修羅の存在の哀しさ、邪空と美惨の届かぬ哀しさがより醸し出されていたような気がします。

というわけで(何が)まずどうしてもそこに触れずにはおられない、なんですが私の大好きな一幕ラストがかなり変わってしまったのは自分の中でちょっとでかかった。この改変がダメだ、と言うわけではなくて、見れると思っていたシーンがなかった寂しさとでもいうのかなあ。勝手なファン心理で申し訳ないんだけれども。でもってそのシーンを支える阿倍晴明役の近藤さんがあまりにも柄に合っていない。私は近藤さん大好きだし「巧さ」という点ではこの出演陣の中でも一二を争う人だと思うけど、近藤さんのうまさと、ここで出して欲しいケレン味たっぷりなある種オーバーアクトな芝居は違うんだよなあ。確かにうまい。だけど、足りない!って感じが拭えない。「偽物」の晴明としての桜姫とのやりとりなんかはむしろ好きなんだけどねえ・・・。小市さんの南北はこれはこれでアリ、という感じで好きですが2幕の使われ方はちょっと勿体ない。それにもっと業を感じさせて欲しかったとも思う。美惨と笑死は正直あまり観ていなかった(おおい!)というのもありますが、あまり気にならなかったな。終盤美惨は衣装替えがあるんだけど、そっちの衣装の方が好きだし、今回の美惨のキャラに合ってると思いました。そういう意味では改変がなんだか中途半端かなと。

高田さんとじゅんさんの「新感線」コンビの仕事っぷりは素晴らしいです。両手放しで万歳三唱。桜姫なんかもっともおいしい「愛は鉄砲」を削られているというのに、少ない出番でも完全に笑いをさらっていくプロぶりには惚れましたよ!じゅんさんも同様。素晴らしいインパクト、そしてその笑いに賭ける執念。もう大好きだし、お馴染みのテーマソングまで使っているとはいえあそこまで客をウケさせるって本当に凄いと思うんだよなあ。私は一個か二個カッコイイ決めのセリフを言うひとより、笑わせてくれる役者の方が好きなので、「新感線的笑い」をたった二人で支えきるご両人にもう拍手拍手でした。

中央の三人はなんというか、実はもうあまり書くことがないかもぐらい文句がないのです。とか言いながら長々書く私。天海さんの阿修羅転生は、しかし本当にすごい迫力。気合いで押されて体が震えました。私が真ん中に居るのが当たり前、私にライトが当たるのが当たり前、私がこの場を支えて当たり前、なオーラはとにかく必見。これがヅカトップの華というものよ!な見せつけぶりが素晴らしい。あとの細かいことなぞどうでもよいわ、な気分になりますな。伊原さんの邪空は非常に期待していたので、予想以上の好演で満足満足。殺陣はっやい!!個人的にはもっと出門への執着を出してきてもいい気がしますが、それは後半のお楽しみかな。望めば望むほど、挑めば挑むほど己の存在が卑小になってしまう邪空というキャラ、あえて比較すると、古田さんの邪空は非常に色気もあり愛嬌もあり、そして何より強い邪空、欲望のベクトルが明確な邪空だったと思うんだけど、伊原さんの邪空は「強きもの」への憧れと、そして決してそれには届き得ない哀しみが見えるところが好きかなと(古田さんは強すぎて余裕ありすぎて届いてしまいそうなんですもの)。
染五郎さんは出門というキャラクターの軽みも存分に体現しつつ、色気噴射(どんな表現)もおさおさ怠りなく、いっやあハマってきたねえ!!観ながらぞくぞくさせられましたなあ。でももっとだ、もっと!って気持ちも正直あるのねん。大阪後半にめちゃめちゃ期待しています。そうそう、出の田村正和パロには大笑い。いやしかし、色気の点ではマサカズ様にも負けておりません事よ!(笑)

枠組みは(おおむね)満足、あとはいつもの、後半に行くほど一層濃くなる情のやりとりに期待、というところですかね。あ〜大阪楽しみ〜!



というわけで、大阪での観劇を終えて更に付け足し。
東京含めて都合4回見ました。おかしいな・・・こんなに見るはずじゃなかったのにな・・・(笑)
見る度に前回公演の影が薄くなるのはそりゃあ自然の摂理だと思うんですが、22日ソワレを三階席で見たとき、おおっ、なんだか凄く良くなってるぞ!って感じだったんですよね。最初見たときから気になっていた近藤晴明が、以前と比べて格段に場を支配しているというのと、夏木美惨の、最期の場面での独白が素晴らしかったってこともあったんだけど、染さまにやっぱり凄くぐっときたからだと思うんだよなあ。色気と軽みを体現しているのはいつもどおりなんだけど、そこに凄味と切なさが加わってきたというか。3年前の、良い意味で余裕のなかった出門の、だからこその必死さと、今回の出門の余裕がうまく噛み合ったというか。で、今日25日私の阿修羅楽だったわけですが、いやーもう本当更に良くなっていて驚き。染さま始めキャストの皆さん、エンジン全開です。近藤晴明はここにきてますます良い!「ここが腹の据えどころ」も、一幕のラストも完全に舞台を自分のものにしてる。正直どうなの?だった歌さえ本気で楽しい。今やもう小市さんが晴明だったらなんて想像もできないほどです。いやマジで。その小市さんも阿修羅城での出門との対決シーンで恐ろしいほどの業・・・というよりはむしろ「悪」を感じさせてくれて良かった。夏木美惨は邪空との最期、「何を考えておられるあなたは・・・!」のあたりとか本気で泣ける。情とエロ全開で作ってきた美惨像があのシーンで結実しているというか、本当に必死で、だから哀しい。でもってだからこそその後の火縁の「鬼もひとも哀しすぎる」の台詞が異様に生きてくるんだよなあ。

天海さんは何よりももう、阿修羅転生のシーンが本気で凄い。あの「茨木葛城悪路王」の出のシーン、4回見て4回とも身体が震えた。迫力というより、もうこれはむしろ圧力ではと言いたくなるぐらいです。だって、身体が実際圧される感じがするもん。大阪公演の途中から、最初に緋の糸しばりをやるシーンで「逃げるなら一緒だ、つばき!」のあとじっと見つめ合い吸い寄せられていく出門とつばきのシーンが追加されていて、つばきの「恋」の気持ちも追いやすい展開になってましたね。そーれにしても格好良かったなあ阿修羅王。惚れ惚れ。でもって私は今日もうすっかり邪空に泣かされてきましたよええ。伊原邪空ホント好き。「男を断とう」のシーン、なんだかそこだけ浮いているな〜って感じが古田邪空の時からしてたんだけど、今日見たときあまりの邪空の必死さにうたれまくり。恋も捨て人としての道も捨てそれでもなお強きものを求め、そして叶わぬこの切なさ。誰かどうにかしてくれええええ!(涙)終わって何が哀しいって伊原さんの邪空にもう会えないのが本気で哀しいよー!「ひとりで死ぬのは怖くてしょうがない」「焦れ焦れ」とか、台詞回し全体がもう哀切ですわ。あ、そういえば鬼御門の屋敷のシーンでつばきに「あたしに出来ることならなんでもやらせてもらう」って言われたときつばきの首筋にちゅーしてた。すげえええええ羨ましいいいい!!!

東京で見たときの感想に、染さまに対してもっとだ、もっと、って気持ちがある、って書いたんだけど、やっぱりあったんじゃん「もっと」。出しゃあ出るんじゃん「もっと」。と思ってしまったのは私だけかしら?いやー来たね。とうとう来たね。声だけで女を「手練手管でイカせる」染さまフェロモン全開だね!出門の軽みを体現した分切なさ度合いが減ってしまったかしら、って感じがあったんだけど軽みと切なさ見事両立。しかも色っぺー。何してても色っぺー。プラス凄味炸裂。今日最後の邪空との立ち回りの前に片方の草履が脱げてしまって、もう片方を咄嗟に脱ぎ捨ててカッと邪空と相対峙した瞬間の目の凄さ!ハプニングにも決して動じないそのプロっぷり!ホントますます惚れ!って感じでした。もう、超満足。
あと何より私がいいな、と思ったのは今回の座組全体の一体感てやつかな。最後に向けて最高のもの作るぜ!という気合いがどんなキャストからも感じられました。ギャグひとつひとつもきっちり練ってきてがっつり客を笑わせる。まさに私の理想とするプロの姿ですわ。2003年版の阿修羅も本当に最高の思い出になりました。ホント、凄いぞ、新感線!