十月大歌舞伎 大阪平成中村座 夜の部

  • 俊寛

今まで若干避け気味な演目だったんですけど、二月に歌舞伎座で拝見した俊寛が素晴らしかったので今回も楽しみにしてました。少将成経と千鳥というある意味この芝居のもう一つの大きな軸になるところを萬太郎くんと新悟くんという若手に託しているので、場面によって力量の差が出てくるのはいかんともしがたしというところでしょうか。しかし萬太郎くん、顔は幼いけど台詞はしっかりしてるし声もいい。千鳥はやっぱり大きい役だなあというのも改めて実感したり。
後半は勘三郎さんの俊寛、瀬尾の彌十郎さんと勘太郎くんの丹左衛門で場面を作る形になるので、そこからは安心して見ていられた感じ。そうそう、丹左衛門が船の上から俊寛に斬りつけられた瀬尾に向かって「慈悲も情けもみどもは知らぬ」とついさっきの瀬尾の台詞をまんま叩き返すところで大拍手でした。きりっとしていてかっこよかったなああ(ぽわわ)
配役のこともあってなんとなく冷静に見ていた部分はあったんですけど、結局最後の勘三郎さんの怒濤の芝居にのまれてしまうのであった。やーなんなんでしょうねあれ。あの心情の伝わりっぷりってほんとすごいと思います。特にいったん背を向けて沖を見ないようにたたずむところ(ほんのすこし背中が傾いで見えるのがまた切ない)、たまらず指の間から船を見つけてしまってからの「思い切っても凡夫心」。最後岩の上に佇む姿はまるで悟りを開いたかのような、諦念というものがにじみ出ていてさすがでした。

  • 太閤桜

今回の中村座のために書かれたのだそうで、なるほど大阪城の桜の名所西の丸庭園というシチュエーションにはこれ以上ないぐらいぴったり。しかし、劇中に二度三度とある暗転(まあその間に光秀の亡霊が出てくるという趣向にはなっているのですが)がどうしても舞台を間延びさせるというか、あれだ、やっぱり古典ってのは良くできてるもんなんだなと改めて思ったりしました。とはいえ、そのばっちりなシチュエーションで、最後秀吉と光秀が大阪城に向かって歩き出す、というときに背面が開き、どどどどーーーん!とライトアップされた大阪城が目に飛び込んでくるのはそれまでの若干のgdgd感を差し引いてもすごい劇的効果。写真で見るより断然近く見えるので、本当にふたりがこれから天守閣に向かっていくように見えるんですよねえ。借景の力おそるべし。

  • 弁天娘女男白浪

七之助くんの弁天小僧を見るのは二回目かしら。その時よりも断然今回のがよかった!という気がしました。この浜松屋見世先の場自体が何回見ても痛快に見られる場面なのもいいですよね。今回は南郷力丸が勘太郎くんなので、二人の息もぴったりという感じ。番頭さんとの「御贔屓の役者は云々」のお遊びもおもしろかったです。
前回見たときも思ったんですけど、見顕しの場面のギャップは文句なしに気持ちいいし、七之助くんはどちらも絵になるお姿なので目にも楽しいんですが、そのあとの弁天小僧としての居座りっぷりが今回のほうがキレがあった気がしました。やっぱり兄弟というか、南郷と口を揃えてさっさと引き出しておくんなせえ、と啖呵をきるあたり、仕草や動きがぴったり揃っててすごいなあと。会場内の湿度がそうとう上がっていた感じで、皆すごく汗をかいていたんだけど、目の前で勘太郎くんがはだけさせた胸の汗をぬぐったりする仕草とかそんなんばっかガン見してたけど反省はしていない(最低ですね)。
稲瀬川勢揃いでは日本駄右衛門の橋之助さんに忠信利平の獅童さん、そして赤星は萬太郎くん!いやこの中ではとびきりのぼんぼんでそれは間違っちゃいないんだが、並んでみるとめちゃめちゃ幼い感じに見える。でも堂々とした渡り台詞でがんばってました。そしてまあこれはもちろん贔屓の引き倒しなんですけどほんと勘太郎くんマジ格好良すぎて、ちょうど下手のお席だったこともあってここぞとばかりに南郷力丸ガン見ですほんとうにありがとうございました。いやーしかしホント七之助くんといい花も実もある役者にお育ちになって・・・とうっとりりんとさせて頂いた一幕でございましたよ。でもって、実の兄弟であるふたりの花道での引っ込み、兄ィ兄ィとじゃれつく七之助くんマジかわゆかった。私の隣見ていた方(花道真横)が、終わったあとお友達に「どうしよう!絵から抜け出てきたみたい!かっこよすぎる!」と大興奮してらしたのもむべなるかな。