シネマ歌舞伎「京鹿子五人娘道成寺/二人椀久」


引越してからシネマ歌舞伎をやっている映画館に行くのがなかなか大変になってしまい、足が遠のいていたのですが、先日Eテレでやっていた「伝心 玉三郎かぶき女方考」での玉三郎さまによる「京鹿子娘道成寺」の実演と解説(ほんとこんな贅沢な番組を企画してシリーズ化してくれるなんて受信料永年払いしてもいい、いや、したい!)を見て、俄然見に行く気になったというか、舞台そのままじゃなくてバックステージの様子やインタビューも入ってるというのにも惹かれて足を運んできました。二人椀久(玉三郎さまと勘九郎さん)も一緒に上映されていますが、私はこの踊りとあまり相性がよくないのか、今まで3回ほど見たことがある…と思うんだけどいまいち好みではないので、今回は五人娘道成寺の感想を。

途中で玉三郎さまの過去の「京鹿子娘道成寺」や玉さまが菊之助さんとおやりになった「京鹿子二人娘道成寺」の映像が出て来たり、それこそ今回一緒に出演された梅枝さんや児太郎さん、七之助さん勘九郎さんのそれぞれの特色がやっぱり出るというか、こうして映像で並べてみるとほんと役者の数だけ…という感じなんだなあというのを実感しました。この舞台は実際に拝見したんですけど、舞台で見るときはやっぱり全体としての絵を認識してしまいますが、こうして切り取られることで見えてくるものもあるなーと。

児太郎さんが「娘道成寺」へのストレートな憧れとこの舞台に出られた喜びを素直に表現されているのがほほえましかったですし、梅枝さんのその喜びもさることながら自分が到達したい、しなければならない道の先を見据えている言葉選びも印象的でした。しかし、梅枝さんはめちゃくちゃ深みのあるいい声をされてますね。普段の喋りからいい声爆弾炸裂させててビックリしました。ナレーションのお仕事とかやってみてほしい。

勘九郎さんが「立役ひとりぶち込まれちゃって…」とか冗談めかして仰ってましたが、この人は踊りを非常に感覚的にとらえてらっしゃる、感覚的というか、どこか「ささげるもの」「ちがうところにいくもの」というような感覚でとらえているようなところがあると私は思っているので(芸能の原点ですよね)、インタビューでそれをうまく理詰めで説明できないのもむべなるかなと思いました。

これは歌舞伎に限らずなんですが、私はこうしたバックステージものの映像のなかでも、出の前に袖にいる役者の顔を見るのが一番好きなんですね。ぜったいに私たちに見えない顔。普段通りのひともいれば、入り込んでいるひともいて、それは役者によってさまざまですが、今回袖で5人の鏡前をずらりと並べて花子の拵えをする姿が見られたのはなんとも御馳走をいただいた気分でした。玉三郎さまが最後の出の前に、ひとつ小さく頷いて鬘をつけるところ、ああいう顔ほんと、しびれますよね。

それにしても、玉三郎さまの演じる花子のひとつひとつが音がしそうに絵としてキマっているのがすごいし、最後にはその顔まですっかりかわっているのもすごいし、恋の手習いの思わず息止めて見つめちゃうみたいな吸引力もすごい。同じ時代に生きて見させていただく喜びたるや。そして、次にひとりでこの道成寺歌舞伎座の舞台で挑んでいくひとは誰になるんでしょうね。