「fff-フォルティッシッシモ-/シルクロード~盗賊と宝石~」宝塚雪組

  • 宝塚大劇場 2階1列87番
  • 作・演出 上田久美子/作・演出 生田大和

観劇仲間のご贔屓の退団公演ということで、その方の感想とかツイートとかを見ていると、そうかあ~一度舞台を拝見してみたいものだなあ~とか思ってたんですけど、もはや「一度拝見してみたい」みたいな心構えで取れるチケットじゃないっていう。駄菓子菓子!今回はぴあ貸切につるっとひっかかりまして、初の雪組観劇でございます。ポーのときに初日に来て以来の宝塚大劇場~!

以下ストーリーについてめちゃネタバレしています。あと今回退団されるトップスターの方以外、ほぼどなたの名前もわからない状態で観ておりますので、なにか失礼がございましたら遠慮なくビシバシ突っ込んでください。

fff、個人的にはゴリゴリのロマンスよりも、こうした話の方が俄然食いつけるタチなので、たいへん楽しく拝見しました。ベートーヴェンを主役に据え、そこに同時代に生きたナポレオンとゲーテを絡ませるという構図で、かつその絡ませ方が多分にイマジナリーを含んでいるので、野木萌葱さんがミュージカル書いたらこんなふうになるのかしら…みたいなことを考えました。冒頭でバッハはさっさと天国に行けたのに、モーツァルトハイドンが審判待ちなのはなんでじゃ!それはもともと神のものたる音楽をお前らが堕落させたからじゃ!お前らの後継者がその真価を問われるときにまとめて裁いたる!という前振りがあり、音楽を一部の限られた特権階級のものから民衆のものにしたいと考える革命思考のベートーヴェンの振る舞いをおそれた3偉人がベートーヴェンの耳を聞こえなくさせる、って展開もなかなか面白かったです。

しかし、最初に連れ立っていた女性は才能に惚れていても身分のハードルは越えてくれず、幼い頃に自分を助けてくれた想い人は自分に対して情はあっても愛のまなざしでは見つめてくれず、という、む、報われねえ~!感がすごかったです。誰よりも近くにいる黒衣の謎の女だけが彼の道連れってすごいな。膝を抱えて「結婚して子供をもってみたかった…」みたいなセリフ言っちゃうんだ…っていう。しかし黒衣の女の役回りはめちゃくちゃしどころのあるいい役でしたね。なんか、硬軟自在な感じもよかった。彼女を介してベートーヴェンが「聴く」ことができるのも劇作の処理としてうまい。

ベートーヴェンにとってナポレオンは解放の象徴(憧れ)であり、同時に世俗にまみれた堕落者でもあるわけですが、ベートーヴェンの夢の中でナポレオンと刹那の邂逅をする場面よかったなー。背後に音符とも陣形ともとれる意匠が動いて形作っていくのすばらしかった。出会わない2人がお互いを高い次元で理解するっていうのはどうしてこうも胸が躍るんでしょうか。そういえばナポレオンの戴冠のときの衣装がジャック=ルイ・ダヴィッドの「ナポレオンの戴冠式」まんまで、王冠もがっつり作ってるのがいやー手を抜かない!って感じで嬉しくなっちゃいましたね。

我々はベートーヴェン交響曲第9番に何を描くかということを知っているわけで、この「来るぞ…来るぞ…」と思いながらあの旋律を待つのも楽しかった。そういえば歓喜の歌はナポレオンがこの芝居の中で語った欧州連合の象徴でもありますね。

ベートーヴェンが主題なだけに、綺羅星のごときメロディーをふんだんに使えるという楽しさもあってよかったなー。主人公に対する「君ならこの旋律が歌えるはずだーーッ」的な難曲ピッチングマシンと化した楽曲の数々もすごかったです。そしてその期待に軽々応える望海さんよ…!ええもん聞かせてもらいました。寿命が伸びました。最後の曲がなんかもう、これがサヨナラ公演だというのを魂になって叩きつけるようなメロディと歌詞でぐっときたなー。あと真彩さんの声めっちゃ好き。歌って良し喋って良しで登場が待ち遠しかったです。

レビューのシルクロード、最初いろいろ目まぐるしくてトップスターさえ見失う体たらくで本当申し訳ない。しかしなぜか鎖に繋がれて出てきた瞬間「あーーキターー」ってわかったのなんでなんだろう。しかもその鎖を小道具にして踊るやつって全おたくが大好きなやつじゃないですか。

あとなんといってもチャイナ風の衣装で踊ったところが最高すぎた!!拙者派手なスーツの群舞大好き侍と申す!振りもいいし流し目(見えてないけど心の目で見た)もいいし、最後に男2人女1人のタンゴになって、男女、男男、女男の組み合わせになるのもうこれ永遠にやってもらっていいやつです…ってなったね。

2021年の観劇初め、寿命も伸ばしてもらったことですし、素晴らしいスタートになりました。どうか最後まで無事公演が行われますよう、心からお祈り申し上げます。