「すけだち」

まあ、なんといっていいもんやら。一本の芝居として見るなら壊滅的にひどい。そうではなくて、出ているキャストの「こういうところが見たかったんでしょ」的なお約束を堪能する歌謡チャンバラショー(だと開演前のアナウンスでも言っていた)と思ってみるなら満足できないこともないのかもしれない。

チケットはDMの優先で取りました。10列めの上手の一番端。整理してものを書こうとしても書けそうにないので思いついたまま書きますが、まず演出家はこれを演出するとき、一度でもサイドブロックからこの舞台がどう見えるのか見てみたんでしょうか。ほとんど180度を客席に取り囲まれていながら、舞台上で前後の動きはあっても左右への出はけが極端に少ないうえ、どんな殺陣も歌も常にアンサンブルまでもが正面を向いてフォーメーションを組む。どう見ても紀伊国屋サイズの劇場を想定しているとしか思えない。

さらに、私が見た回では1幕で北村有起哉さんのマイクが死に(それも中途半端に音が入るから、有起哉さんは音が入らないと声を張ろうとし、そうすると突然マイクが入って音が割れるというようなストレスフルな状況)、それも早々に調子がおかしくなりしかもそのあとかなり長い間出てこないシーンもあるのに、一向にそれが改善されないまま1幕通していたのもどうかと思った。なんのための舞台監督なんだ。(メイクやカツラの関係で休憩時間でないと直せない、というなら1幕だけでも地声で通すなり代替手段を見つけるなりして欲しいし、そういう時のマニュアルがあってしかるべきだろう)さらに、2幕では筧さんのマイクが死んで、声を張るシーンでは地声でやりきったが最後の最後、主人公になにかをささやきかけるシーンでは残念ながら何を言っているのかビタイチ聞き取ることが出来なかった。それで当日ビデオ録りだったっていうんだから恐れ入るし、そんな状況で帰り際堂々と翌日以降のチケットを売れる神経にも恐れ入る。

いろんなところから借りてきたと思しきシュチュエーションに、こういうシーンがやりたい(もしくはやらなきゃいけない)というシークエンスだけで繋げた脚本にしか思えず、1幕は長い割に状況説明に汲々としすぎ、二幕は短いのに話を錯綜させすぎて完全に意味不明状態に。最後の見せ場終わったしもうさっさと風呂敷畳めばいいんでしょ的な勢いでキャストがバッタバッタと死んでいくのは驚きを通り越して呆れた。しかも最後に「銀鉄」まんまの台詞を恥ずかしげもなく使うという飛び道具っぷりにはもう笑いました。

岡村さんは昔からよくやるけど、突然明かりを素に戻してアドリブっぽいコントシーンを延々やる、というやつが私はとにかく大嫌いで、それでまだああ今のシーンは舞台とはなんの関係もないけど笑えたからいいや!と思えるのならまだしも、大して笑えもしないシーンを飽かずに繰り返したり、どう見ても発声や滑舌すらおぼつかない、といったような役者が大挙して出ていて、それを、それでもいい、と思って演出家やプロデューサーが舞台を創っているということに、なによりも落胆するし、あの子たちは舞台の上に立ってひとに何かを見せる、ということをどう思ってるのかなと思ってしまう。

そういうものを、この舞台に求める方が間違いですよ、と言われるのだろうけど、そういう言葉で許されるにはこの舞台には高い単価を払いすぎているように思う。これが駅前劇場で2500円だったら、私も文句は言いません。

よかったところをあげるなら、実はあまり見ることの出来ない筧さんの日本刀を使った立ち回りを見ることが出来ることと、めったと見ることが出来ないであろう有起哉さんのアイドルぶりと二幕の突然の熱演、そして松浦さんの歌ぐらいじゃないでしょうか。

二幕で敵方に乗り込んでいくとき、腰の据わった筧さんのスピードのある立ち回りを見て、ああ〜私的にはこの30秒のために9000円出したんだなあとその一瞬はうっとりさせていただきました。

私の隣の席の人は1幕の休憩で席を立ったまま2幕が始まっても戻って来ませんでしたが、その気持ちはよくわかる。救いは休憩20分を入れても2時間10分で終わる短さかな。そこんところはありがたかった。あと、飲食可能な劇場はたくさん見てきたけど、座席の背もたれにドリンクホルダーまである劇場を見たのは初めてです。恐るべし新宿コマ。