「宝飾時計」

根本宗子さん新作。けっこう評判良くて行こうかな~と思った時には確かチケット売切れてた気がするんだが、その後平日19時の回なら行けるかも!?と探し直してみたら普通に買えました。ありがてえ。平日の19時開演、ありがてえ。

とある新作ミュージカルのトリプルキャストに選ばれた3人の子役と、その相手役だった男の子の、過去と現在を交錯して描いていく構成。わかりやすい記号なしにシームレスに変化していくので、整理が悪いと混乱した舞台になってしまうところだけど、演者の腕の確かさもありスムーズに観られたかな。

気になる点がないわけではなく、たとえば2幕の構成的に、1幕の断片を違う角度からもう一度見せる、ということが眼目なので、同じやり取りを2回見ることになるわけだが、「2回見る」ということがわかっていてなお驚き、ワンダーを感じさせる力が少なかったところはちと残念ではあった。あとラストは思いっきり簡潔でもよかった。冗長に感じてしまったな。「死んだことになった」子どもの部分も、理屈としてなぜそうなるのか(葬式までしたというので、完全な失踪と思われるが、11歳で完全な失踪がなしえるものか?親は?)、という部分が飲み込み辛かった部分もあった。

とはいえ、劇中で3度ほど、むちゃくちゃシンパシーが高まる瞬間があり、その沸点の高さゆえに観劇後の感触は極めてよかったです。いいもの見たな、と思わせてくれた。3人の元子役はそれぞれ今は三者三様ではあるんだけど、ゆりかと大小路、真理恵とマネージャー、杏香と母親という関係性が物語の眼目でもあって、3人それぞれにぐっと胸を掴まれる場面がありました。

中でも、かつては鼻持ちならない子役で、今は挫折ゆえにひきこもりとなっている杏香が、3人との再会の場面で「死んだことになった」彼に語りかける場面は白眉だったと思う。今の自分のどうしようもなさ、そして過去の自分のどうしようもなさ、それを吐露し、くやしがり、後悔し、母親に「でも結局あんたと生きていかなきゃいけない」というところ、あまりにも素晴らしくて心を揺さぶられまくった。伊藤万理華さんすごすぎる。身体も効くし、いろんなところから引っ張りだこになりそう。この先が楽しみな女優さんだなと思いました。

ゆりかが、かつて「自分が一番だ」と認められたことについて、何かに取り組んだことでひとに認められることの喜びを語る場面も印象的。思えば豪華なキャストだったな!高畑充希さんはもちろん、小池栄子さん出てるの知らなくてファーストシーンでむちゃくちゃビックリしたし、なんかこの人成田凌に似てるな~と思った人が成田凌でマジか!ってなったし、池津さんや八十田さんの存在感も見事だった。後藤剛範さん、ごっちん娘を彷彿とさせる場面があったり、小池栄子さんのツッコミ冴えわたるボケの数々も面白く、しかし最終的に一番芯を食った台詞でもっていくっていう、しどころのある役でむちゃくちゃよかったです。

最後に舞台上で高畑充希さんが歌う楽曲、むちゃくちゃ椎名林檎っぽいやんけ…と思ったら椎名林檎だった。そんなんばっかりや。根本宗子さんは台詞の洪水を書かせたときに一番輝くと思っているので、いろんな場面でそうした台詞の応酬を沢山見られて楽しかったです。