「シアター・キャンプ」


サンダンス映画祭でアンサンブル賞受賞、監督ニック・リーバーマンモリー・ゴードン。ついったで予告編がぽろっとTLに流れてきて面白そうやんか~~と思って見てきました。期待に違わぬ面白さだったし演劇を愛する者のひとりとしてしみじみしてしまうところもあり、シアターゴアーな皆さまほど(特に、いっときでも創り手でありたいという気持ちを持ったことのある人ほど)おすすめです。

この作品はモキュメンタリー方式で撮影されていて、演劇スクール「アディロンド・アクト」の校長が光過敏性発作(ポケモンショックだー!)で昏睡状態となり、演劇に1ミリも興味のない彼女の息子が子どもたちが夏休みの間に参加するシアター・キャンプにやってくるところから始まります。っていうと、その息子トロイがシアターキャンプをめちゃくちゃにして、その彼に対抗するために…みたいなありがちな物語を想像してしまうけど、そういう展開にはならない。トロイはトロイで明後日の方向ではあるけれどなんとかこの演劇スクールを持続させようとしていて、スクールの講師たちはそれぞれ毎年の「お決まり」にどこか食傷気味になりながらも、今夏のキャンプでいくつかの作品を創りあげようと奮闘するし、そのうちのひとつはスクール創始者の校長の人生を描くオリジナルミュージカルだったりする。

その、メタなことを言うようであれですが、まずこんなキャンプがあちこちにあるんだとしたらね、そりゃあアメリカさんよ、あんたは一生ステージエンタテイメントの王だよ、と跪いてしまうしかないよねっていう。そのジャンルを豊かにするのは何よりも「子どもたちの憧れであること」っていうことをしみじみ実感しますわ。

子どもの頃の恋心からエイモスとの二人三脚を選んでスクールにいるけれど、プレイヤーとしての夢が頭をもたげるレベッカ、そんなレベッカを許容できないエイモス、スクールのために資金を集めようとするけれどうまくいかないトロイ…。大人たちは大人たちでけっこうめちゃくちゃで、めちゃくちゃなんだけど、でも最後の最後、ひとつのミュージカルを作り上げようとするところでは一番大事なものは失わないっていうのがね、すごくよかった。ずっと裏方で舞台監督周りの仕事に徹していたグレンがなによりも才能ある演者だとわかる展開も含めて、おとぎ話のようではあるんだけど、でもなんつーか、演劇ってこういうおとぎ話をリアルにしてしまう力がありますよね。あの圧巻のステージ、ぐっとくるなんてもんじゃなかった。

それにしても、演劇って不思議だ。「作っていく過程」がこんなにも絵にならない…というか、かっこつかないというか、いったい何をやってるんだ…?と思っちゃう芸術ってあんまりないんじゃないだろうか。照明も衣装もメイクも小道具もない状態、台本もあやふやで音楽もあやふやな状態、到底これがあの華やかなステージになるとは思えないし、どこかスピリチュアルに傾きすぎて引いちゃう、みたいなことを思うのに、思うのに…本当に一瞬の声、歌、台詞、ゆれる空気、ライトに照らされるステージ…そういうもので、まさに一瞬にして魔法がかかる。これは本当、演劇にしかない醍醐味だと思うし、この映画はその「何かよくわからない」ものが宝石に変わる瞬間をとらえることに成功しているように思えます。

笑える場面もたくさんあって、メントールリップで泣こうとする女の子への説教とか最高だったし、作っている人の演劇への愛を感じる場面がいっぱいあったな~。個人的に、グレンに弟子入りしたような、裏方の仕事人!みたいなメガネの女の子のキャラ、ちょう好きでした。演劇独特の「よさ」と「ふしぎさ」をこれ以上ないほど掬い取ってくれた映画だったなと思います。マジでおすすめ!!!!