「御菓子司 亀屋権太楼」MONO

MONO新作。まず最初にこれを言っておきたいんですけど、東京公演このあとありますので、お時間の合う方はぜひにとおすすめしたい。面白かったし、しみじみと、本当にしみじみと良く、見終わった後に胸の真ん中がぎゅっと温かくなるような気持ちを味わえました。

かくいう私もMONOの公演は3年ほどご無沙汰していましたが、今回扇町に新しくできた劇場での公演というのと、今まで場面や時制の動かない芝居が多かった土田さんが、今回場所や時間の制約を取っ払って書いてみると仰ってたのが気になり(そしてタイトルでますます気になり)足を運んできました。

江戸時代から続く老舗和菓子屋…のはずだったのに、実はその店の経歴は嘘っぱちで、創業者である父親がでっち上げたらしい…ということところから、現在店を継いでいる次男、店の経営には関与していないっぽい長男、店で働く長男の娘、父とともに働いてきた工場の職人たちが、「亀屋権太楼」の浮き沈みとともに描かれます。

経歴詐称、兄弟の確執、炎上騒動、部落問題…と、どれをとってもシリアスにならざるを得ないながらも、そのときどきでぶつかり合って、ダメだとおもったら頭を下げて、どうにもならねえやと匙を投げそうになりながらも、それでもどこかでなんとかやっていく、そういう大人たちのすったもんだを、こんなに愛しく、面白く、切なく書けるのが、やっぱり土田さんは書ける人だよなあ~と感嘆するほかないという感じでした。土田さんはどんなキャラクターでも一方的に悪人、一方的に善人みたいな書き方をされないので、祐吉と吉文の兄弟も、どういう展開が待っているのかなと思ったら…いやーやられたね。「謝るのが得意」と言われて深く傷つく(あれは傷ついたんだよなあ)祐吉を、ホントにいろいろダメだけど、でも一度は完全に、ちゃんと「負け」たことを受け止めた兄が諭すところ、本当にぐっときた。ちゃんと負けて、ちゃんと傷つかなきゃ見えないことってあるんだよなあ。そこからのあの「よしよし」でしょ…いやマジで私の涙腺にドカドカ蹴りを入れられたし、人生のつらさを否定しないし、どうにもならなさも否定しないし、でもね、でも、その先があるよって言ってくれる、そういう脚本が本当に、心の底から沁みました。

考えてみればぜんぜんハッピーエンドじゃないし、めでたしめでたしからは程遠いんだけど、でもあの梅の木がたとえなくなっても、メジロが春を告げなくなっても、季節は回るんだよねって思えて、私は好きなラストでした。

組子文様で彩られたセットが、パズルのように形を変えて社長のオフィスになり、休憩所になり、カフェになりと形を変えていくのと、その転換のさま、ちょっとナイロンぽさもあって、時間と場所を暗転させずに変えていく手法として目に楽しく洗練されていたなあと。時間も、1年、2年じゃなく、6月、1年6月、3月とズラしていくことで、季節(風流)がうつっていくさまが台詞に組み込まれているのもうまいなあと思ったなあ。あと、道庭と青山、そして奈良原の3人の彼らにしかわからない出自ゆえの苦しさもしっかり書き込んでいるのがさすがすぎた。先代に恩があると思いながらも、反面彼らにその出自を忘れさせることはなかった「恩人」。これを他者が悪とか、善とか二色に断罪することで、どれだけのものがこぼれ落ちてるんだろうなと思わされたな。

尾方さん、あまりにも青年として好人物すぎて、それがあまりにも似合っていて、最後は本当に胸が苦しくなったけど、でもああいうお兄ちゃんがいてよかったねと心から思えたなあ。道庭さんと青山さんのコンビも最高だった。ああいう素っ頓狂さを出させて金替さんの右に出るものはいないと思う。そして土田さんの安定の胡散臭さよ!上演時間2時間、劇団としての力に感じ入るきわめてクオリティの高い一本でした。超おすすめです!